第14話
なにかの、CMの歌と似ていた。男の人は、微かな声を出して唄いはじめた。
何て綺麗な声で唄うんだろうって思った。
泣いてしまいそうだった。
好きな歌を歌っている歌手より、何倍も、何百倍も綺麗な声だった。
低くて、澄んでいて、哀しくて。
鳥肌というものを、人生で初めて体験したくらい。
今思えば、日本語ではなかったように思える。
家に帰ったって、家族の誰かにその傷付いた原因を話すなんてことはできなかったけれど、それでも。
私はその歌に殺されて、生かされた。
それから9年と少しが経った6月の或る日。
私が16歳になる年度、姉が結婚した。
幼い頃今まで味わったことのない傷を負ってから、同じようなことは二度ほど、耳にすることがあった。
母ではない、姉が私の実の母親で、父親はいなく、経済的な面で懸念され実の“おばあちゃん”にお世話になっているのではないかとか。
姉は私の姉ではなく、母の“妹”なのではないかとか。これは、7歳のことに言われたことでもあった。あの時は『叔母さん』の意味もわからなかったけど。
他人にしてみれば自分の日常の上で挨拶よりも価値の低い、アノコノイエノコトなのだろう。けど、それを聞いてしまった私はきっとそれを一生忘れられないだろう真実がどうであれ。
20歳、離れているのが、そんなにおかしいか。
私は、幼い頃から、その日姉が永遠を誓う相手の――“薫”のことを、知っていた。
だから。
――――お姉ちゃんのことを叔母さんだとか、ましてや私のお母さんだとか、そういうことを言うの、やめてほしかった。
私には今日の為に、年ごろだからと可愛らしいドレスを選んでくれる優しいお母さんがいる。
お姉ちゃんが私のお母さんなんて言われたら、いつも気さくな薫はどんな顔をするだろう。
その所為で、結婚が遅くなったのかと思っていた。
真実が怖かった。聞けなかった。7歳からずっと、今も。
涙は流すことなく浮かんで、永遠を誓い合う愛しい人たちを映す。
同じ表情をしている人が、同じチャペルにいることに気付くまで、そう時間は掛からなかった。
高校一年生の梅雨。海原学という人を知る。
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