第4話

それにしてはあっけらかんとしていて信憑性に欠ける。




「まだ疑ってる」




妖艶に彼女が呟き、笑みを見せる。




「じゃあ明々白々な事実を。二次会の続きね。酔っ払った先生は『一人で家に帰る』と言いました。私は見送ると言ったのですが、手を払い除け、よたよたとお店を後に。私は先生の背を追いました。何処へ行くのかと人に引き留められたので、店先まで。タクシーは呼べないだろうから呼んで、見送りだけすると言ってタクシーを呼んで、先生が乗って、私も乗り込みました。覚えていますか?」




僕がそれに答える前に、彼女は再び口を開く。




「で、このホテル。着いて、先生は何の躊躇いもなく部屋を取りました――元々昨晩はホテルに宿泊する予定でしたか?――エレベーターに乗った時、私の存在に気が付いて『む、何だ君は』と。私は先生の論文を拝見しましたと言いました。先生は、とった部屋へ着くまでの間、饒舌にメロンクリームソーダの話をしたり、突然口を噤んだりを繰り返しました、ほんのり赤い顔で。それで、部屋に着いて入ると『君もここに泊まるのか?』と。私は頷いて鍵を閉めました。此処までで何か質問は?」




質問どころか突っ込みどころは満載だったけれど、ひとつ気になることが。




「……タクシー代は」


「?」



「タクシー代は、ちゃんと僕が支払いましたか」


「……」




彼女はきょとんとした後、はい、と、小さな声で言って頷いた。





様子は見えなくてもその声だけは、娘らしく可愛いと思った。

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