第5話

「先生は、大人ですね」


「まあかれこれ“大人”は二十年近くやっています」


「私、そのままでいいって言ったんです。けど先生が。それが証拠です。証拠として残っちゃうのに」


「避妊具ですか?それは大人でもなんでもありません」




彼女がどういう表情をしているのかはわからない。






ただ、僕は今、彼女に押し倒された。




彼女がシーツの下に羽織っていたワイシャツも僕に影を刺した。






「なんでしょう」




「……先生は、大人ですね」


「今聞きました」


「童貞、ではないですよね」


「不惑にもなる男になんの好奇心があるのか知りませんが、行為に及んだのであれば判るのでは」


「……!」




上から、ふわりと大人びた香水の香りが降ってくる。



「……っすきです」




「は?」




それは突然の土砂降りへと姿を変えて。




瞼を、閉じざるをえなくなる。






「――――すみません。僕にはプロポーズしようと思っている人がいます」







名前も、年齢も知らない相手に、誰にも明かしたことのない決意を明かしてしまった。

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