第2話

此処がホテルの寝室で、ベッドの上で、自分は――パンツしか身に着けていないことは分かった。



解っていないけれども判った。




取り敢えず眼鏡を、と思い、身体を起こして彼女を跳ね退ける勢いで擦れ違い、ベッドから降りようとする、と。背に彼女の手が伸びてきた。




「こら。勝手に何処へ行く」


「うわ」




パンツのゴム部分をぐわしっと掴まれ、寝室の出口であるドアに手を伸ばしたままベッドから落ちかけ、空いていた右手でベッドの縁を掴んだらパンツを押さえられず、半ケツ状態。




なんとか落ちずに(パンツ脱げずに)一命をとりとめる。




僕は、恐る恐る振り返った。




すると恐らく目の合った彼女の顔が、ぼやりと赤らむのが分かった。




……え、何。





「……。君は、誰だ。名前は」



「初めて聞いてくれた。言いませんが!」



「え……!?君の方は僕を知っていて此処に?というか、その。何故下着だけ……昨日のことが記憶にないのだけれど……」



「ひどい」


彼女は瞼を閉じた。



「え」


「あんなに愛し合ったのに」


「……は?」



「先生、お尻も素晴らしいんだ」




する、と交わされてはぐらかされて噛み合わない会話に、「アイ、し、あ?」と片言のような言葉を吐く。




噛み砕く。






ありえないことがおきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る