第7話
男は振り向き様に、手にしたゴミを見るよりもっとゴミを見下ろすような、一、二回会った今までは微塵も見せなかったような眸で小さく口にした。
その瞬間ブツリと。
心の中の血管が切れた私は怒っているのか泣いているのかわからないような掻き乱された心のまま縮めた距離の先、一度は向こうから触れられたその手を引いてテラスから離れた裏路地へ連れて行った。
勤務中の店先だったおかげか逃げなかった男の手を離せば、息が詰まった。
嗚咽にはならなかったけれど、顔を見たらやっぱりムカつくとか悔しいとか情けないとか、そういう感情が一気に押し寄せて来て涙は零れそうだったかもしれない。
本音は、殴りたかった。
あれは、あのお見合いパーティーは、確かに一瞬だった。
けど。
それから先に繋がる気がした一瞬だったその時、笑い話になったあのおかしな七三分けも偽物。もう、跡形もない。
今風に流されたやわらかそうな髪だけが、本当の彼が偽物だということを教えてくれたから、私はあの時、あの番号が呼ばれることを祈ったあの時握り締めた手を振りかざす。
でも、それすら。
ため息を吐き出した彼の強い指先によって止められて、私は。
どうしたらいいのか、どうすれば無かったことにできるのか、もう。
「何?殴りに来たわけ?…明らかに口悪いのオジョーサマに見られない為って感じの恋愛経験なさそうな箱入りだったもんねあんた。その所為で恋人できなかったんだろ?俺は高そうなブランドものの服着て、“面白いこと”言えば落ちるなーってわかり易くて助かったわ」
彼が何を言っているのかわからない。掴まれた手首が、いたい。
「あ。もしかして思い出とかほしい?最後に会ったとき“優しく”抱いてあげた方がよかった?初対面で結婚想像するとか凄いよな、見えるものしか見て選んでないもんな」
きっと、赤は、残る。
「作った俺、好みだったんだろ。いーよ、処女面倒だけど最中名前くらい呼んでやるよ……っつうか、ストーカーなら訴えるけど。貰った金残ったら」
「…………お金は、もう、いい」
要らない。
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