第5話
そう、必死に言い聞かせていることは自分でもわかっていた。
ただ私は、騙された恥ずかしい自分を、人に知られたくないだけ。惨めだと思ってほしくないから嫌でも自分を偽っている。見栄を張っている。何もかも。
家族に、“自分で選んだいい人”を紹介するためにあの場に参加した。
それで、失敗した。
「今まで会ったことのない人に惹かれたの。受け入れない振りして本当は、今考えれば印象付けるためだったそういう一連の言葉も話題も、自分のために用意されたってどこかで気付いていながら駆け落ちみたいな恋愛劇に酔いたかっただけ」
だって、きっと“普通の人”の話じゃなかった。私が多少のお金を手配できることを知った口ぶりだった。
始めから私は金づるで、ターゲットでしかなかった。だから名前も読めたのだろう。
「だから――もういいや、結婚式でばっくれられるよりはマシだったし」
私は自分の前のオレンジジュースにかかるストローに手をかけて、氷が溶けた水に沈められたオレンジ色の沈殿をかき混ぜる。
友人は嘘だと口を動かした。
「初めて会った人だったんでしょ?惹かれたのは手を引かれた事自体じゃないでしょ、その人自身だったくせに」
「……。あー…、そう、だったのかな」
「だって、盲目って今自分で」
そう、だったのか。
あれが、初恋?
「いつ、好きに……」
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