第3話
――…3人目までは聞こえていた筈の5分間トーク開始の合図は、何故かこの口の上手い男の時だけ耳に入らなかった。
席についた時点で彼の言葉に夢中になっていて、正直、一番あっという間な5分で。
終了のアナウンスが入ってはっとして、思わず彼の厭らしい七三分けの下、利口そうに私を見遣る奥二重の大きな眸を見つめてしまった時にはもう遅かった。
彼は、やわらかい視線と言葉を残して席を立ち。
「あっという間でした。ミクさん、俺でよければまた…この時間の続きを」
ふわりと。
笑みを落として微笑ったのだ。
このお見合いパーティーの仕組み上、最後はこの先を考える相手の胸に名前と共に記された番号を、配布された紙に書いて提出、相思相愛となり成立したカップルのみが番号で呼ばれる。
その“番号”を書いて、ペンを置いた私は。
司会者の女の人がスクリーンに映し出された青とピンクの数字と共にカップル成立の番号を呼び始めた時、汗ばんだ手を握り締めていた。
「13番と25番の方、3番と30番の方、15番と39番の方、4番と――」
キリリ。震えて、苦しくなった心臓。
「20番の方」
20番は、樫月くんの番号だった。
「未来さん」
解散後、ホテルの会場を出たところで壁に凭れて私を待っていた姿に唇が引き締められる。
「選んでくれて、ありがとう」
立って向かい合えばスラッとした立ち姿に赤が差す。
攫うように両手をとられて、さりげなく左手のあの指に口づけされて驚いた。
「改めて、結婚を前提に俺とお付き合いしてください」
ああ。
私は、ばかだ。
火照る頬にそそのかされてこんなに簡単に、守り続けてきたこの指を今日初対面の見た目と名前しかわからない男に預けてしまったのだから。
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