2話
第5話
不思議そうに見上げると、明らかに小さく目を見開いた。
「もしかして…お兄ちゃんも行きたくなかったんじゃ…」
「バイトはこれから」
「ほんとに?」
う、嘘くさい。
でもしょうがない。言っちゃったからには私が行かなきゃなのだろう…。
そして私は浴衣にそっと目を這わせる。
「ああもう…。これ着なきゃだめかなー?」
「着なかったら母さんが泣くだけ」
「うっ」
私の頭の中には、早速、もうお母さんが泣くイメージが出来上がった。
ああ、また私は断れない。
嘘くさくもバイトに行く準備をするお兄ちゃんが出て行ってから、重々しく手を動かし、紺色に朝顔が咲く綺麗な浴衣を着た。
肩より少し伸びた髪も、ちゃんと纏め上げて呟いた。
「それでも恥ずかしいよお母さん…」
「じゃあ、行ってきます」
私が家を出るときもまだいたお兄ちゃんに声をかけ、暗がりの中公園に向かった。
誰にも会いませんように…。
私は下駄を履いた足を出来る限り速く動かして、先を急ぐ。
しかし。
そう思っているときに限って恐れていたことは起こってしまうものだったらしく。
「あれ、うちのクラスの長谷川だ」
「何、知り合いでもいた?」
「どれ?」
「男?女?どれ」
「…!」
出た…!
ど、どうしようどうしよう。
もう嫌、だ帰りたい。
横を向いたまま固まる私の元に、苗字を指定した声が届く。
見れない傍には恐らくクラスの男子がただ一人いて、他の数人は知らない人。
なんでこういうお祭りって、男子、が。
それでも堂々と目の前を通り過ぎてお好み焼きを買う…なんてことが私に出来る筈もなく、ただパニックになった私はとりあえず近くの土手の方に向かって引き返した。
「おー?あの子?向こう行った子?」
「クラスの人だったんじゃねーのお前」
「え、俺顔見えなかった見たい」
「はあ?何、服引っ張んないで。追わないから」
「凛、お前なー…。いいか、俺らは暇なんだ」
「何その真顔」
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