第3話

でも、お母さん食べたいって言ってるしなぁ。

それを聞いちゃうと、もう私に断ることは出来ない。



「しょうがないよね」


溜め息をついた私は忙しないお母さんとお兄ちゃんを残して、二階に上がり、さっき開いていたアルバムを再び開いた。



そして、そこに書いてある文字を指でなぞって口にする。



「ひ…ろ、くんかぁ。懐かしいなー」



弘くんこと弘喜くんは、私がまだ幼稚園に通っていたくらいの頃仲良くしてくれていた少年。



家が隣だとか、親同士が仲良かったとかではないんだけれど…。



あ、やっぱり親同士はちょっと仲良かったかも。


お母さんはまだ、弘くんのお母さんと年賀状の交換とかしているかもしれないなあ。



とにかく、弘くんは小学校に進学するのを期に、この町から引っ越して行った。


まあ、よくあると言えばよくある話。



関係といったって、誰にだっているような、“幼稚園時代の友だち”。



写真の中には、顔にダンゴ虫をくっつけたままアップで笑う弘くんと、隣で大泣きしながら両手の平にダンゴ虫を乗せた私が写っている。




ああ…。


私、これ絶対嫌ってハッキリ言えなかったんだろうな。



なんだか今もそんなに成長していない気がする。


悲しい…。





焦げ茶の髪に、同じ色の眸をした弘くん。


正直、写真が残っているから“この人が弘くん”って分かるけれど、もし写真がなかったら覚えていなかったと思う。




だとしても弘くんは、私のヒーローだった。



この写真の中で、ずっと止まってるヒーロー。




いつもハッキリ言えなくて、


優柔不断で、


気弱。

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