第21話 到着(2)

 歌乃と和人が奏達と合流する、少し前。

 奏と弥生は割り当てられた部屋に荷物を置きに来ていた。


「旅館!!めちゃくちゃ豪華!!流石は私立、やりますねえ!!」

「奏ちゃん、テンションどうしたの……?」

「え?テンション上がんない!?旅館だよ!!しかも多分だけど何食かはここで食べるでしょ!?最高!?最高すぎます!!」

「……何か、歌乃君が普段疲れる理由が分かった気がする」


 普段の奏の様子とは似ても似つかない。

 落ち着いていて、穏やかに微笑む奏の姿は一体何処へ行ったのか。

 ただ、弥生は少しだけ納得したような気がした。

 以前カラオケで聞いた歌乃との関係。

 普段抑えている反動で楽しい時ははっちゃけてしまう。

 おそらくは、そうなのだろうと。


「ふぅ……満足した。荷物片付けよっと」

「怖い怖い怖い!!!!」


 もしかしたら違うかもしれない。

 弥生はそう思った。


「あ、こんにちは、奏さん、弥生さん」

「同じ部屋ね。よろしく、奏、弥生」

「あれ?同じだったんだ。よろしくね。二人とも」


 次に部屋に入ってきたのは凛華と美都。

 偶然にも、あの日カラオケで遊んだメンバーがこの部屋に集っていた。

 そして、最後の一人。

 のほほん、という言葉が似合うような、茶色の短髪の女子生徒。

 頭頂部のアホ毛を揺らしてマイペースに部屋に入ってきた。


「えっとー、自己紹介必要な感じだよね?陽宮みどりです。よろしくお願いしま〜す」

「私は天崎奏。よろしく〜」

「鈴代弥生です。よろしくね」

「橘凛華です。よろしくお願いします」

「由咲美都。よろしく」


 一通り挨拶を終えた後は各自で荷物の整理を始めた。

 真っ先に終わった奏は何をしようかと考える。

 自由時間は昼まで。

 旅館内は自由に動き回っていいと陽宮先生は言っていた。

 スマホを取り出してLINEを歌乃へと送った。


『自由時間の間一緒に旅館見て回らない?』

『分かった』


 すぐに返ってきた返事。

 その返事を奏と弥生が見ていた。


「ついでに和人も呼んでってお願いしてもらってもいい?」

「いいよ〜」

『動けるようになったら連絡ちょーだい。弥生ちゃんもいるからついでに和人君も呼んでおいて』

『今から行く』

『了解〜』


 思ったよりも早い返事に、二人は立ち上がった。


「凛華ちゃん達はこのまま部屋にいる感じ?」

「はい、そのつもりです。何処か行くんですか?」

「ちょっと旅館の中まで回ってくるつもり。荷物見ててもらってもいい?」

「良いですよ。もし移動することになったらLINE送りますので一応気にしておいてください」

「分かった。ごめん、美都ちゃんと翠ちゃんも、荷物お願い」

「良いよ」

「は〜い」


 三人に言った後、二人は部屋を出た。

 大勢の生徒達が動き回る中から動きづらそうにしている男子と、苦笑しながら先導する男子の二人を見つけ出した。


「歌乃は相変わらずだね……人が動き回ってる中だと凄く歩きづらそう。入学式だと私の手引っ張って人の間通ったくせに」

「え、何その話。詳しく」

「あー、そだね。二人が来るまでの間は話そうかな」


 奏は弥生に入学式での出来事を話した。

 クラス確認の時に歌乃に手を引かれて掲示板を見た事。

 それを聞いた弥生は目を輝かせた。


「歌乃君結構強引なんだね。……奏ちゃんはその時どう思ったの?」

「へ?別に、何も……」

「え?手を握られて気にしなかったの?」

「うん、気にしてないけど……?」

「……」

「……」


 無言の時間から逃げるように。

 二人は到着した歌乃達を見た。


「ほぼ反対の位置の部屋だったんだね、歌乃」

「みたいだな」

「ともかく、じゃあ行こうか」


 奏は弥生の視線から逃げた。

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