第20話 到着(1)
再びバスに乗り、移動した。
移動中、奏の頭が歌乃の肩に乗ったその瞬間。歌乃は容赦なく奏の頬をつねって起こした。
当然、奏は歌乃に猛抗議した。
しかしながら再三の奏の行動に、歌乃の目は据わってしまっていた。
無言で見つめてくる歌乃の視線から目を逸らした奏。
それ以降は特に何も起こることなく、バスは目的地であった旅館の前へと到着した。
「はーい、到着しました。部屋番号は覚えてますよね?覚えてなかったら私に言ってください。荷物を部屋に置いた後、12時まで休憩時間にします。旅館内は自由に移動して良いですが、節度を守る事。12時には入り口前に集まる事。以上、解散!!」
その言葉に生徒達は自分の荷物を持って指定された部屋へと向かう。
歌乃と和人も同じように部屋へと向かった。
靴を脱ぎ、旅館のスタッフに預けた後、木目の映える床を歩いていく。
五人ずつ割り当てられた中部屋。
二人は部屋の中へと入った。
「和室か……」
床に敷き詰められた畳。
今は外されているが本来なら障子で区切られているはずの二つの部屋があった。
おお、と感動したような声を和人は上げた。
「さて、じゃあ残りの三人が来るまで……あ、もう来たみたいだね」
二人が来てすぐに、三人の生徒が部屋に足を踏み入れた。
「よお、和人。早いな、もう来てたのか」
「や、
「おう、よろしく」
「よろしく、和人」
「よろしく」
晶と呼ばれた背の高い男子生徒。春馬と呼ばれた、眼鏡をかけた真面目っぽい生徒。祭と呼ばれた、晶と同じく背の高い男子生徒。
和人と三人が仲良く話し始める。
その最中、歌乃は一人で荷物の整理を始めた。
決して三人のことを無視をしたわけでは無く、ただ単に話に入ることができなかったためだ。
和人と三人は友人。ただ歌乃は三人とはクラスメイト、というだけの関係。
声をかける勇気が無かった歌乃は、とりあえず荷物の整理を始めてしまったのだった。
「……歌乃、別に話に入ってきてもいいぞ?」
「……悪い。何話せばいいか分からん」
「そっかあ……」
結局歌乃は会話に混ざらないまま。
和人は三人と話し続け、ふと思い出したように言った。
「俺ちょっとトイレ行ってくる」
「あ、なら俺も行く」
「俺も行こうかな」
「なら一緒に行くか。歌乃、晶、少し荷物見ててくれ」
「分かった」
和人は春馬、祭と部屋を出ていき。
歌乃と晶だけが部屋に残っていた。
「……」
「……なあ」
沈黙する空気の中で。
晶が歌乃に話しかけた。
「……何?」
少々ぶっきらぼうに答えた歌乃に。
晶は質問した。
「黒瀬って天崎さんと付き合ってるのか?」
「んなわけあるか。あと最初の質問がそれでいいのか」
その歌乃の言葉に、興味津々といった様子を晶は見せた。
「あんな距離感してるのに?」
「距離感が近ければ恋人だと言うつもりか?」
「もちろん」
「……何でお前そんなに目ぇ輝かせてるんだよ。率直に言って気持ち悪い」
「他人の恋愛事情とか金払えるくらい面白いだろう?」
「お前歪んでるよ」
歌乃から辛辣な言葉をぶつけられても晶は怯む事なく次々と質問した。
段々と歌乃が面倒くさくなってきた時、和人達が部屋に戻ってきた。
「けど恋愛関係ってなるより外から見てる方が面白いだろ?」
「……ちょうどいいところに。和人、何でこいつはこんなに歪んでるんだ?」
「いやあのさ、トイレ行ってる間に何があったんだ?何で歌乃と晶そんなに打ち解けてるんだ?」
「打ち解けてない」
「いやあ、黒瀬って面白いな!!」
「俺じゃなくて俺の人間関係が、だろ」
「そうとも言う」
「……本当に何なん、こいつ」
困惑している歌乃を見て和人は苦笑した。
「晶はそういう奴なんだよ。慣れろ」
「……最悪だ」
「ついでだ、こっちの二人の名前は春馬と祭。で、分かってると思うけどあのコミュし……ぼっ……一人が好きな奴が歌乃だ」
酷い紹介にため息を吐いて歌乃は立ち上がった。
和人の後ろにいた二人と握手をし、お互いに自己紹介。
挨拶を終わらせて再び荷物の整理に戻ろうとした歌乃の携帯が、静かに震えた。
「……」
『自由時間の間一緒に旅館見て回らない?』
送り主は、もちろん奏。
歌乃はすぐさま返信した。
『分かった』
『動けるようになったら連絡ちょーだい。弥生ちゃんもいるからついでに和人君も呼んでおいて』
『今から行く』
『了解〜』
携帯を閉じた歌乃は話をしている和人に声をかけた。
「和人。恋人がお呼びだ。自由時間一緒に旅館内を見て回りたいとさ」
「了解した。春馬ごめん、話はまた後でな。歌乃、天崎さんも来るんだろ?さっさと行こう」
「……何で分かるんだよ」
「勘、かな?すまん、三人ともしばらく外行ってくる」
歌乃は携帯だけを手に持ち、和人は三人にそう断ってから部屋の外へと出た。
他の部屋も出入りが多くなっていた。
別の部屋になった友人に話しに行っているのだろう。
人の往来が激しくなった通路の真ん中を、二人は歩いていった。
そうして歩く事数分。
「ほぼ反対の位置の部屋だったんだね、歌乃」
「みたいだな」
「ともかく、じゃあ行こうか」
四人は揃って歩き出した。
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