第19話 移動って疲れる
「じゃあ和人君。貴方の初恋について教えてくださいにゃん」
「天崎お嬢様、弥生様、その質問に答える前に一つ抗議したい案件があります」
「弥生お姉さま、いかがなさいますにゃん」
「そうですわね……わたくしとしては、その抗議を聞くべきだと思いますわ」
その言葉と共に、三人の視線が歌乃に向いた。
「……俺ちょっとトイレ行ってきていいか?」
「駄目ですよ?」
「駄目にゃん」
「駄目ですわ」
明らかに逃げ出そうと嘘をついた歌乃を、三人は逃がさない。
トランプによる勝負が8回目に達した今のタイミング。
現在の状況を簡単に説明するとこうなる。
奏。
語尾に『にゃん』。弥生の呼び方は『弥生お姉さま』。過去の失敗を暴露。
和人。
敬語固定。奏に対して『お嬢様』呼び。弥生に対して『様』をつけて呼ぶ。初恋について語る。
弥生。お嬢様言葉(にわかオッケー)。
歌乃。罰ゲーム無し。
「おかしいにゃん。歌乃罰ゲーム一回も受けてないにゃん」
「しかも罰ゲーム指定側にもなってないですよね」
「おかしくありませんこと?これは不正しているに違いありませんわ」
「一位にも最下位にもなってないだけだろ」
「「「……」」」
「疑う要素無くね?」
八回の勝負が終わっても歌乃は一度も一位になっていない。
そして一度も最下位になっていなかった。
「……少々趣向を変えて、運任せの勝負はいかがかしら?」
「ポーカーですか?」
「ええ、そうですわ。ジョーカーは一枚、交換は一回まで。いかが?」
「賛成にゃん」
「良いぞ」
「勝ち抜けの形式で。役なしが二人になったらもう一度その二人で勝負という形で」
いつの間にか混ぜられていたカードの山を手に、弥生は全員に五枚ずつカードを配った。
「交換いたします?」
「交換するにゃん」
「交換します」
「交換しない」
「やっぱり不正ですわ」
「間違いないにゃん」
「マジですか」
「してねえわ」
三人が交換し、一斉に役を公開した。
「ツーペアですわ」
「役なしにゃん」
「ワンペアです」
「フラッシュ」
「「「は?」」」
「お前ら殺意高すぎだ。抑えろ」
歌乃の手には、ハートの3、5、10、11が一枚ずつ、ジョーカーが一枚あった。
最初の段階で揃っていた歌乃に交換する理由は無かった。
「奏、罰ゲームだ」
「……にゃん」
「最近やらかした事を白状しろ」
「歌乃から借りた消しゴム無くしかけて大慌てで見つけたにゃん……」
再びカードを配り、それぞれの役を四人は公開した。
「ツーペアですわ」
「スリーペアです」
「ツーペアにゃん」
三人がワンペアを超えた役。
また負けるかも、そう考えた三人の予想は大きく外れた。
「役なしだ」
「……へ?」
「で、罰ゲームは?」
「歌乃ってポーカー強くない……にゃん?」
「俺はいつも役なしか最初に役が揃うかの二択だ」
「性格どころか結果も0か100しかない……にゃん……?」
「……お前さっきの罰ゲーム変更して今の語尾録音してやろうか?」
「歌乃は良い子にゃん」
「黙れ。……で、罰ゲームは?」
「うーん、そうだなぁ……」
うん、と和人は決めた。
「お前の語尾、『ござる』で固定な」
「後でぶっ殺すござる」
「怖えわ。お前が一番殺意高いじゃねえか……」
これ以降は歌乃が罰ゲームを受ける事も増え、四人は楽しい時間を過ごした。
そうして更に一時間ほどの時間が過ぎ、トランプに飽きてきた頃。
新幹線内に停車予告のアナウンスが鳴った。
「と、あと少しで到着だな。荷物纏めとくか」
「だな」
停車した新幹線から生徒達は降りていく。
降りた歌乃は疲労を感じさせる声で呟いた。
「……人が多い」
「頑張って歌乃」
明らかに人の多い駅構内を陽宮に従って歌乃達は進んで行った。
改札の数も出発した駅よりも遥かに多い数ある。
しばらく人の波に揉まれた後、駅の外へと繋がるドアを通り抜けた生徒達は皆一様にその顔に少し疲れを滲ませていた。
同じように駅からようやく出る事ができたと歌乃がため息をつく。
次の瞬間だった。
「では、もう一度バスに乗って移動しまーす」
「……ああ、そうだったな」
止まっているバスが歌乃の視界に映る。
バス、新幹線、バス。
歌乃は最早ため息を吐くことすらなく。
再度バスに乗り込むこととなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます