第18話 罰ゲーム

 揺れるバス内。

 歌乃の表情が無になってきた時。ようやく、バスが停車した。

 窓の外から見える景色。奏の頭越しに大きな建物と大勢の人が目に映る。

 ここは駅だ。

 見るだけでウンザリしそうな光景、今からそこに自分も混ざらなければならない、奏はいつまで頭を乗せているのか。

 歌乃は、左手を構えた。


「……起きろ」

「へぶっ」


 頭を軽く叩かれた奏は呻いて目を覚ました。

 約一時間。奏の頭は歌乃の肩に乗りっぱなしだった。

 歌乃の肩は今もまだ痛みを訴えている。

 その恨みによって、歌乃は容赦なく奏を叩くことが出来た。


「……流石に酷くない?」

「なら置き去りにしてやろうか」

「そういう時は、一緒に居てあげるよ、って言ってよ」

「お前テンションおかしいぞ。寝起きだな?」

「寝起きだよ、奏です!」

「……そろそろキレるぞ?」


 そう言いながら、歌乃は自分と奏の鞄を手に取り立ち上がった。


「優しいね~」

「んなわけあるか。自分で持て」

「……うん、分かってた」


 不機嫌全開だもんね、と呟く奏。

 歌乃はその声を聞き流し、バスの運転席側へと歩き出した。

 その後ろに奏が、和人、弥生、更に後ろの座席の生徒が続く。


「「「「ありがとうございました」」」」


 運転手へと挨拶をしてバスを降り、陽宮から旅行用バッグを左手で受け取った歌乃。

 その背中を奏は追いかけた。


「ありがとうね。肩貸してくれて」

「今度からはしっかり寝ろ。……いや、前も言った記憶あるな、次は叩き起こす」

「はーい、見てわかる通り、ここで乗り換えでーす。席は覚えてますね?行きますよ〜」


 それからは、予定通り。

 新幹線の車内に着いた四人は歌乃と奏、弥生と和人がそれぞれ向き合う形で席に座った。

 歌乃と弥生が窓側、奏と和人が通路側。

 座った奏は早速、トランプを鞄から取り出した。


「やる?」

「いいぞ。四人か……小さいテーブルしかねえし、ババ抜きからやってみるか」

「俺やるって言ってねえんだけど」

「え、歌乃君やらないの……?」

「……鈴代さんその顔はやめてくれ。罪悪感がすごい」


 新幹線が動き出すまで四人は待った。

 発車の放送、ゆっくりと前方へと進み出す新幹線。

 段々と加速につれて揺れが大きくなり、ある一定速度を超えた時、逆に揺れが少なくなる。

 安定してきたタイミング。

 他の席の生徒達も何かしら暇を潰す為の道具を取り出し、少し騒がしくなった。


「じゃあ配りまーす」


 その言葉と共に奏は全員にカードを配る。

 ババであるジョーカーを含めた合計53枚のカード。

 歌乃は右手で、奏と弥生は両手で、和人は左手でカードを裏返して見た。


「あ、揃ってる」

「俺もだわ」

「私も」

「……」


 二組ずつ揃ったカードがテーブルの上に置かれていく。

 歌乃以外の三人は最初の時点で手持ちの枚数を減らした。

 その中でも特に一人。


「あ、ここも揃ってる。……結構減ったかな?」

「弥生ちゃん強くない?まだ最初だよ?」

「ババ抜きだし、まだまだここからじゃないかな」

「歌乃は?」

「……組み合わせはゼロだ」

「へえ……」


 悪い事を思いついた、奏はそんな表情を浮かべた。

 嫌な予感がする、そう歌乃が思った時には遅かった。


「最下位の人は罰ゲームね」

「え?」

「……聞いてない」

「言ってないからね。内容は……その時一位の人が決めるという事で」


 じゃあ早速、と。

 奏は和人からカードを一枚引いた。


 ジョーカーだった。


「……ほー」


 いきなりババを引いた事実に、嫌な予感を感じた奏。

 その予感は間違っていなかった。


「上がり」


 まず、弥生が上がった。

 そして、次に。


「上がった」

「……嘘」


 歌乃が上がる。

 分かっていた事だが、奏は歌乃に罰ゲームを受けさせる気でいた。

 最初のカード分配の時点で歌乃の不利は決定していた。にも関わらず、歌乃はあっさりとカードを揃え終わる。

 いつの間にか奏と和人の一騎打ちの形になっていた。

 奏の手には二枚、和人の手には一枚。

 そして今は和人の番だった。


「絶対負けたくねえ……隣から怖い笑い声してるし……」

「ふふふ……」

「弥生ちゃん怖いよ……歌乃助けて……」

「知るか。俺に罰ゲームさせようとしてた奴がよく言う」


 意を決して、和人はカードを引いた。


「っしゃ!!」

「負けた……」

「じゃあ罰ゲームね〜」


 弥生は数秒思案したあと、うん、と頷いて罰ゲームを決めた。


「新幹線降りるまでの間、四人の前では語尾に『にゃん』って付けて」

「……えっ」

「あ、『にゃん』って付け忘れたら『にゃんにゃん♪』って言ってね♪」


 一回目からエゲツない罰ゲームを容赦なく奏に課した弥生。

 思わず歌乃は本音を言ってしまった。


「……和人、お前の彼女良い性格してんな」

「……だな」

「ねえ、奏ちゃん」

「な、何……に、にゃ、ん……//」

「……ふふふふふ」

「……何だこれ」

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