第15話 起きられないのは【修正】
静かな部屋に、スマホのアラームが鳴り響く。
伸ばされた手の持ち主が画面を見ると、そこには設定されているアラーム予約がずらりと並んでいた。
「……眠い」
歌乃はアラームを止めて再び目を閉じ、しかし意を決したように体を起こした。
「……起きるか」
昨日、朝起きれなかった時のためにと考えて5分ごとに計20回のアラームをセットした。
結局一回目で無事に目を覚ますことが出来たわけで。現在の時刻は、午前5時。
出発する生徒の住所にもよるが、歌乃は一度学校に集合した後にバスに乗る形になる。そのため、集合時間である午前6時30分に遅れるわけにはいかない。
体を起こした歌乃は早速顔を洗うために一階へと繋がる階段に向かった。
現在は4時30分。
朝日がまだ顔を出さない時間帯。電気をつけなければ薄暗い階段。
歌乃は慎重に階段を降りて行った。
「おはよう、歌乃。早起き出来たみたいね?」
「おはよ……」
既に起きていた自分の母親へとぼんやりとした朝の挨拶を返し、歌乃は洗面所に到着した。
「さて……さっさと準備するか」
そう呟いて、右手に水をつけた瞬間だった。
「冷たっ!?」
あまりの冷たさに思わず叫んでしまう。手を引っ込めて冷水に触れる事に躊躇しながら、覚悟を決めて顔に叩きつける。
その冷たさで一気に目が冴えた。
「……目、覚めたな」
リビングへと入った歌乃は、今日だけ用意されていたサンドイッチを食べた。それを用意したのは目の前にいる歌奈。
ガツガツと食べる歌乃に、歌奈は笑顔を見せた。
「美味しい?」
「美味い」
「それなら良かった。合宿中、怪我しないように気をつけてね」
「むぐ……了解した」
サンドイッチを食べ終わった歌乃はすぐさま自室へと戻って着替え始める。
合宿中も何度か服を変える事にはなるが、基本的には制服。慣れた手つきで歌乃は制服を着ていく。
制服を着終わってた歌乃は再び一階へと降り、歯磨き、髭の確認を終わらせて荷物を玄関へと運ぶ。
靴を履き、バッグの中身を今一度確認してから歌乃は立ち上がる。二泊三日分、大きめの旅行用バッグと肩掛けの旅行鞄の二つを持って。
「しおりは持った?」
「……持った」
「全く……昨日見つからないって大騒ぎした時はびっくりしたわよ。結局机のど真ん中に置いてあったし」
「傷口掘り返すのマジでやめてくれ。……じゃあ、行ってくる」
「その前に父さんから伝言。『楽しんで来るように!』だそうです」
「はいはい。それじゃ、明後日の夜まではさいなら」
「行ってらっしゃい。気をつけてねー」
母の言葉を背に、歌乃は外に出た。4月の早朝、朝日が出る前。
まるで冬に戻ったかのような気温に驚きながら、しかし隣の幼馴染の家に向かって歩き出した。
歌乃が家を出た時間は5時10分ごろ。
一方、奏は爆睡していた。
「……すぅ……すぅ」
起きなければならない時間から逃れるように、布団を顔の近くで抱き締めて寝息を立てている。
今日、旭高等学校に入学した一年生はレクリエーション合宿に出発する。それは分かっていた。
母である沙良にも一度起きるようにと声をかけられた。
「……ん」
それでも奏は寝てしまった。
二度寝である。折角起こされたのに、再び眠った。
ただしそれを許す母ではなかった。
「奏!!!!!!!!」
「はぁい!?!?」
バン!!!!と大音量で開かれる扉。
奏は飛び上がるように目を覚ました。
「今日から合宿じゃないの!?アナタもう高校生でしょう!!!!起こしてあげるのは仕方ないけど、二度寝してどうするの!?」
「ぁい!!すぐに準備する!!ごめんなさい!!」
「口を動かす前に!?」
「体動かします!!」
ドタバタと音を立てて奏は準備を始める。一階へと急いで降りて顔を洗い、リビングに用意されている朝食を食べ、身支度を整える。
軽口を叩く暇もなかった。
大きめの旅行用バッグと、手持ちの鞄。二つを持ち上げて奏は玄関のドアを開けた。
慌てて開かれたドアの先にいた人物を見た奏は思わず動きを止めてしまった。
「……おはよう。遅かったな」
「……ごめんなさい!!」
明らかに待っていた、という様子の歌乃。旅行用バッグを地面に置き、スマホ片手に暇つぶしをしていたようだった。
その姿を見た奏は、咄嗟に謝る言葉しか出てこなかった。
歌乃が怒っているようには見えない。
ただ、それでも一緒に行く、と言い出した奏の方が遅れた。その事実に歌乃からは若干の呆れが見てとれた。
「ごめんね、歌乃君。一緒に行ってくれるのは本当に有り難かったのに……」
「気にしないでください沙良さん。何となく予想してましたので」
歌乃はスマホを仕舞って旅行用バッグを持ち直す。その様子に慌てて奏は外に飛び出した。
「行ってきます!!」
「……行ってらっしゃい。歌乃君、奏のことよろしくね」
「了解です」
「別にわた」
「奏?」
「何でも無いです!!行ってきまーす!!」
大慌てで走り出した奏を呆れたような目で見ながら、しかし優しげな微笑みを浮かべて沙良は二人を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます