第14話 理由
「♪〜〜〜〜」
「わあ……天崎さん歌上手ですね」
「いやいや、それほどでも〜」
「この点数はよっぽど上手くないと無理でしょ……案外身近にいるものなのね。プロ並に歌の上手い人」
土曜日。奏は弥生と、新しく高校で出来た友人の橘凛華、由咲亜美の二名を含めた四人でカラオケに来ていた。
二人を奏と引き合わせたのは弥生。三人は元々中学時代の知り合いであり、弥生がその話をした時に奏が是非とも会いたい、と言ったことがきっかけだった。
仲良くなるために土曜日に一緒に遊ぼうと提案した弥生に三人も賛成。
今はカラオケで順番に歌っているところだった。
歌い終わった奏がマイクを手放す。それに合わせて、凛華が奏に声をかけた。
「えっと……天崎さん、でいいですか?」
「奏でいいよー。私も凛華さんって呼んでいい?
「いいですよ。奏さん、結構歌上手いですよね。カラオケよく行く感じなんですか?」
「うん。けど最近はご無沙汰だったし……あ、ちょっと前に行ったかな。入学式の後とか」
「そんなに頻繁に行くってことは、歌うのが好きなんですか?」
「勿論。まあ、最初は違ったけどね」
あはは、と奏は誤魔化すように笑う。
初めて歌った時を思い出し、笑みは苦笑いへと変わった。そう、あの時は今より酷かった。それが変わった理由。
そこまで奏が話す前に、今度は亜美が奏に話しかけた。
「ねえ、さっき入学式の後も行ったって言ってたけど……もしかして、黒瀬君と?」
「そうそう。久しぶりに二人で行ったんだよね」
「……気になってたんだけどさ」
「うん?」
「どうして奏さんは黒瀬君の事をあんなに気にかけてるの?わざわざ構う必要なくない?」
その美都の何気ない一言。
弥生と凛華は空気が凍りついたような気がした。笑みを浮かべていた奏は押し黙り、美都は静かに奏を見続けている。
その沈黙の中、奏は静かに美都を見た。
「……何でそんなこと聞くの?」
「純粋な興味」
嘘ではない。
美都の様子からそう判断した奏は深く息を吸ってから笑ってみせた。
「あっはー、悪気が無いなら良かった。……理由は色々あるかな」
「詳しく」
「折角だし、私からも是非」
「私からもよろしくお願いします」
「わお、結構がっついてくるね?まずはやっぱり、息苦しくないことかな」
奏は、歌乃との関係を思い出しながら話した。
「素の状態で何でも言える関係って、すごく気楽だからね。本音を隠さなくていい。態度も飾らなくていい。笑って、喧嘩して、そういった関係が楽。それが一つ目の理由かな」
「中学校の時もそんな関係だったの?」
「……それが違うんだよね」
僅かにトーンの下がった声で奏は続けた。
「中学生ってさ、異性の関係にすごく敏感になる時期じゃない?それもあって、中学校の頃は今よりも歌乃と話す時間無かったんだよね。朝たまに一緒に登校して、たまに一緒に帰るくらい」
「それは分かるかも。私も和人との関係すごく揶揄われたし」
「弥生ちゃんもそうなんだ?まあ、それで私結構我慢しててさ。成績良くして性格良くして。委員会も部活も打ち込んで、あれもこれもって必死に優等生やってて」
「そうだったんですか?」
「まあね。周りからは完璧女子、とかあだ名つけられたくらいにはね」
そうしたらさ、と。
「ストレス思いっきり溜めちゃって。歌乃と大喧嘩したの」
天崎奏にとって、黒瀬歌乃との関係が決定的に変化したのは、この時だった。
「私が一方的にイライラしててさ。原因は本当に些細なことで。歌乃は何も悪く無いのに怒鳴って、文句言って、言いたい放題言って。でも流石に歌乃も怒ったし、怒鳴られた。ふざけるな、って」
「それは、また、なんとも……」
「歌乃と話さなくなってから、久しぶりに話してそれだからね。……その時私さ、結構歌乃に甘えてたって気付いた。普段から軽口言い合ったり軽い喧嘩したりして気楽な関係で居るだけですごく心が軽くなってたって」
だから、と奏は続けた。
「中学校で急に距離を離した事もちょっと悪いと思ってたし。歌乃も一人が好き、とか言ってるけど友達出来ないからそう言ってるだけだし。私が仲介役になって友達作るきっかけになってあげようかなって」
「なかなか重たい感情ね……」
「私もまさかそんな理由があるとは知らなかった……」
「でも歌乃たくさんの人と関わると疲れちゃうから数絞らないといけないんだよね……」
「あれですね……面倒くさい人なんですね、黒瀬君って」
「あはは……そうなんだよね……」
謎の共感を四人が感じていた、その時。
黒瀬歌奈は2階から爆音のくしゃみを聞いていた。
『ぶぇっくし!!!!へっくしょん!!!!』
「……誰か歌乃のこと話してるのかしら」
合宿前の休日は、騒がしく過ぎていった。
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