第12話 グループ決定
「はい、二日目でもきちんと全員揃っててくれて、先生とても嬉しいで〜す。じゃあ、出席取りますね〜」
機嫌の良い陽宮澪の言葉を聞いていた歌乃は、眠気で意識を失う寸前だった。昨日カラオケで聞いた言葉がいつまでも頭から離れず、考え続けているうちに寝不足になってしまった。
「……眠た」
周りに聞こえないように独り言を呟いた歌乃は、目線の動きだけで右側を見た。
「……」
「グループ分けについて昨日質問がありました。別クラスでも問題無いですので、組みたい人がいるなら気にしないでくださいね〜」
その先に座っているのは、
歌乃からすれば理由が分からず、ただただ無視出来るようにするしかない。眠気は限界、原因の分からない敵視。
少しずつ、歌乃のストレスは溜まっていた。
「とりあえず、今日の一時限目はこれで終了ね。後の時間が終わるまでは先日お伝えしたグループ分けの話をしてくださいね〜。用紙もここに置いてあります。先生ここに居ますから、聞きたいことがあったら聞きに来てね〜」
その言葉を最後に。
教室の喧騒の中、歌乃はゆっくりと意識を手放した。
頬杖をついた右手を支えに、微かに寝息を立て始める。
授業の終わりと合わせて近くに来ていた奏は呆れたように呟いた。
「……寝てるね」
奏が近くに来ても歌乃は眠ったまま。起きる気配は微塵もなかった。
「寝てるな。歌乃、マジで危機感持った方がいいと思うんだが……」
「でも黒瀬君が居眠りって……意外だなぁ」
「昨日何か考え込んでたし。また気になることでもあったんでしょ。それで眠れなかったんじゃない?」
「へー……まあいいや。用紙貰ってくるから四人で班組もうぜ」
「いいよー」
「寝てる人の意思は何処へ……?」
「歌乃は渋るけど書けって言われればどうせ書くから。気にしなくていいよ」
教壇に用紙を取りにいった和人。その時、少しづつではあるが教室内に隣のクラスの生徒も入ってきていた。
奏はニコニコと笑みを浮かべて歌乃の顔を見ている。そして弥生はそんな奏の様子を微笑ましそうに見ていた。
ふとある事を思いついた奏は歌乃の席の前でしゃがんだ。
「おーい、起きろー」
「……ん」
奏が歌乃の肩を揺らすと、あっさりと目を覚ました。閉じていた瞼を開いてもたれかかっていた右腕を戻す。
左手で眉間の辺りを押さえる歌乃。目の前にいた奏をその視線が捉えた。
「……顔が近い」
「美少女の顔が近くにありますよー」
「眼福だ。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
ふざけた掛け合いではあるが、この距離の近さはやはり幼馴染であるからと言える。
「お待たせ。……何でイチャイチャしてんだよ、お前らは」
「イチャついては無い。これがいつもの距離感だ」
「へいへい、そーですか。ほい、班決める紙」
和人は用紙を歌乃の机の上に置いた。
五列の空白。その左の一番上には『班長』、その下は全員『班員』と記されている。
嫌な予感を感じた歌乃は真っ先に言った。
「俺は班長やらないからな」
「……黒瀬君、面倒な事は言い出しっぺがやるという法則ご存知ですか?」
「じゃあ歌乃班長で。私代わりに書いとくね」
「おい」
「よろしく頼むぜ、歌乃」
「……なんか問題起こっても知らんからな?」
「黒瀬君なら大丈夫そう」
「勘弁してくれ鈴代さん……大体、」
「はい、全員分書き終わったよー」
「…………分かったよ」
それからしばらくして。授業の終わりを知らせるチャイムの音が教室のスピーカーから鳴り響いた。
あともう一時間か、という呟きが教室のあちらこちらから聞こえる。歌乃はトイレに行く、と言って立ち上がった。
「俺も行くわ」
「行ってらー」
二人で教室を出た、その時。
全く同じタイミングで隣のクラスから一人の男子生徒が出てきた。
歌乃が隣を通り過ぎようとすると、男子生徒は歌乃を呼び止めた。
「なあ、君」
「俺?」
「違う。そっちの君」
自分を指差して傾げた和人ではなく、歌乃へと視線をはっきりと向けていた。
「……俺?」
「そう。黒瀬歌乃、だよな?」
まるで見定めるような視線が、歌乃に向けられていた。
「丁度いい。俺は
奏。呼び捨てで呼ぶその男子生徒に違和感を感じながら歌乃は言い返した。
「……自分で言った方がいいと思う」
「僕が言うと多分聞かないからさ。奏にこう伝えてくれ。無視をするのはやめてくれ、と。流石に1日経っても既読が付かないのは俺も傷つく。伝言、よろしく頼むよ」
ふと、歌乃は昨日の事を思い出した。
奏のLINEの一人をブロックした。その名前は、『K.hiroto』という名前だった。
K。蔵馬。
目の前の男子生徒が、件のLINEの相手だったか。
クラスに戻っていく寛人の背中を見ながら、歌乃は心の中でそう呟いた。
「…………俺の事完全スルーだったんだけど」
「むしろ良かったと思うけどな」
歌乃の悩み事が、また一つ増える事となった。
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