第8話 二人の関係 (1)
歌乃が和人の話を聞き始めてから数分経った。ひたすら喋っている和人の話を聞きながら、歌乃は奏が近づいてくるのを視界の端で捉えていた。
その隣に一人の女子生徒がいる事も。予想が外れて欲しい、そんな歌乃の思いは奏の言葉に粉砕された。
「や、歌乃。君の友達候補を連れてきたよ」
「本当にありがたいね。帰れ」
無表情のまま言い放つ歌乃。しかし奏は平気な顔で言い返す。
「嫌かなぁ。むしろ歌乃の反応を観察しようと思ってるところだね」
「良い性格してるな?」
「当たり前でしょ?歌乃の幼馴染なんだから。良い性格してないと心が折れてもおかしく無い」
そして、歌乃は押し黙った。
奏の隣にいる女子生徒、弥生が興味深そうに歌乃と奏のやり取りを見ていたからだ。ニマニマという音が聞こえそうなほど持ち上がった口の端。僅かに細められた大きな目。
距離感を掴めず、話しかけられず、歌乃は目を伏せる。その様子を前に、尚も興味深そうな目を歌乃に向けたまま、弥生は和人へと話しかけた。
「早速友達が出来たの?和人」
「まあな。というか、クラスの全員に一通り声はかけた」
「おお、流石。早速だけど、奏ちゃんと元同級生だった鈴代弥生です。よろしくね、黒瀬君」
「……よろしく、鈴代さん」
隣で見ていた奏は、弥生の目がイタズラっぽく輝く様子を見た気がした。
それは、間違いではなく。
「折角だし、この四人で連絡先交換しない?ついでにグループも作ろうよ」
その言葉に嬉しそうに笑ったのは和人。名案だ、と頷いたのは奏。ただし歌乃だけは微妙な顔をしていた。
「いや、知り合ったばかりでグループって……」
「黒瀬君は嫌なの?」
「嫌ではない、けど」
「じゃあ決定。今から作って誘うね」
歌乃が反論する前に弥生はさっさとチャットアプリでグループを作り四人を招待した。
三人の携帯から通知音が鳴る。奏と和人はすぐに了承し、歌乃は数秒迷った後に了承ボタンを押す。
問題なく出来上がるグループ。
本当に良いのか、そう悩む歌乃はしたり顔の三人には気づかなかった。
「ていうか、和人も鈴代さんも……何?何で三人とも無表情なんだよ」
「「「いやー、あはは……」」」
「?」
「そ、そういえばさ、何で和人が前なの?」
「え?」
「いやだって、『さ』くらがわ、と、『く』ろせ、でしょ?逆じゃない?」
「「……あ」」
当たり前の事実に歌乃と和人は間抜けな声を漏らした。どう考えても二人は席を間違えている、それを指摘されるまで何故気づかなかったのか。
その時だった。
「楽しく喋ってるところ悪いけど、そろそろ席についてね〜。みんなも早く帰りたいでしょ〜?」
鈴が鳴るようなハッキリとした、しかし声とは反対にのんびりしたような間延びした声。
教壇に立つ女性が、教室によく響く声で言った。
その声の直後、ガタガタと席に座る音が鳴り始め、歌乃と和人はそそくさと席を交代し奏と弥生もそれぞれの席へと戻って行った。
「うん、行動が早くてよろしい。花丸で〜す。とりあえず、まずは自己紹介しますね〜」
フワフワと長い茶髪を揺らしながらその女性は黒板に名前を書いた。
「私の名前は『
じゃあ、早速ですが、と陽宮先生は続け、教壇の隣に置いた椅子に座り。
順番に生徒の自己紹介が始まった。
名前、趣味、特技。
和人は堂々と、歌乃は淡々と。奏は丁寧に、弥生は優しげに。
生徒達それぞれの性格を表すような自己紹介はすぐに終わった。
自己紹介の後、陽宮は立ち上がって各種連絡事項を伝え、簡単に一年を通した予定を説明。
そして。
「はい、今日は一旦これで終わり。……と、言いたいところですが。一つご連絡があります」
ぴょこ、と人差し指を立てて陽宮先生は言った。
「一週間後、簡単なレクリエーション合宿を行います」
少しだけ、教室がざわついた。
「持ち物は、筆記用具と着替え、人によっては保湿クリームだとか、そういったもの。始まる前に伝えるから、あまり気にしなくていいよ。ただし、ここからが本題。4人グループか5人グループを今週までに決めて。合宿中、イベントなんかで一緒に動く班員になります。明日用意するプリントにそれぞれの名前を書いて提出してください。もし、決まってなかったら先生が勝手にグループ分けして混ぜます。俗に言う闇鍋ですね♪覚悟しておいてくださいね〜。では、本日は終了!また、明日ね!」
最後までテンションの高いまま部屋を出て行った陽宮先生の言葉に、総毛立つ生徒達。
しかし、そんな空気の中。
歌乃は悠然と肩掛けバッグを手に取り立ちあがろうとしていた。
「いやいやいや、少し待とうか歌乃君?」
和人は立ち上がりかけていた歌乃の肩をがっしりと掴んだ。
「何だよ和人」
「話聞いてたよね?メンバー決めてないと闇鍋されるよ?」
「……まあ、それもまた一興だ」
「君のことがよく分からなくなってきたんだけど?さっき弥生に人見知りしてたよね?初対面の相手と班組まされるよ?」
「そん時はそん時だ。最悪、それなりに会話して終わりまで何とか耐える」
「そんなの駄目に決まってるでしょ歌乃。レクリエーションだよ?仲良くなるのが目的。分かるよね?」
和人が掴んだ側と逆の肩を、いつの間にか近くまで来ていた奏が掴んだ。
「……何でこうなる」
独り言のように呟いた歌乃に、教室の全員が心の中でツッコミを入れた。
お前のせいだよ、と。
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