第7話 教室で (2)
歌乃が和人と話す少し前の時間。
教室の中、丁度正反対の場所で奏は思いがけない再会をしていた。
「あれ?奏ちゃん?」
「へ?……弥生ちゃん?同じ高校だったの!?」
奏は声をかけてきた相手は
茶色の短髪を揺らし、ニコニコとよく笑うその様子。初対面の相手であろうとその裏表の無い表情を前にすれば確実に警戒を解くだろうと思えるほどの明るさ。
奏を美人とするならば、弥生は美少女。
久しぶりの再会に二人は喜んだ。
「弥生ちゃん久しぶり!!えっと……小学校以来?かな?」
「そうだよ。中学校からは別だったからね」
「早速だけど、連絡先交換しよ!!」
「もちろん」
連絡先を交換した二人は、再び話し始めた。
「そういえば、弥生ちゃんは何でこの高校に?確か公立の高校行きたい、って言ってなかったっけ?」
「小学校の時はね。両親の負担になっちゃうし、頑張らないとって思ってたから。けど、自由に選んでいいよってお母さん達が」
「へー」
「それにそれだけじゃなくて、実は彼氏と同じ高校に行きたいって思ったからっていう理由もある」
「わお。……いいなあ。方や私は少しズレた男の幼馴染。ズルい!」
「幼馴染……歌乃君だったっけ?」
「そう」
歌乃はさ、と奏は話し始めた。
中学校の卒業式で歌乃と話した時に同じ高校だと気付いた事、朝一緒に登校することになった事、相変わらず一人を好むこと。
話を書き終わった弥生は疑っているような、怪訝そうな表情を奏に向けた。
「幼馴染の男子とたまたま同じ高校……?しかもこれからは毎朝一緒に登校……?それなんて題名のラノベ?」
「実は事実なんです……」
「いやいや……え?本当なの?」
「本当なんだよね……ほら、あそこのクール系気取ったぼっち野郎」
「幼馴染の紹介としては辛辣すぎない?」
相変わらず一人でいる歌乃。それも今は窓の外を眺めている。その様子に奏はため息をついた。
「いやだってさ、クラスメイトに自分からは話しかけないし。一人でも平気だ、って素で言うんだよ?普通そんなこと言う?」
「……言わないかなぁ」
「良くも悪くも素直なんだよね。人が嫌な気持ちになる事は絶対言わないけど、何だこいつって思う事普通の顔して言うからね」
奏の歌乃に対するあまりにも辛辣な評価。だがその内容とは裏腹に表情は穏やかだった。
弥生からしてみると愚痴を言うフリをして自慢されているような、変な感覚。
現に今も奏は続けて文句を言い続けているがそれでも本心から貶すような言葉は一切使っていない。
「じゃあいい人って事?」
「一応はそうだと思う。ただ本人はあまり人と接するのが好きじゃないとかほざくから」
「ほざく……」
「私が小学校の時、学校終わりに遊ぼうって言ったらそう返してきたんだよ?」
「それはほざいてますね」
そんな小さい頃から一人が良いとか言っていたのか、と。
格好をつけて言う人はいる。だが、奏の話を聞いている限り歌乃は本心から言っているのだろうと。一人が好きだ、なんて普通は言わない。
それこそ、幼馴染である奏相手だから心置きなく言える事。
「でも嫌いじゃないんでしょ?」
「……何かほっとけないんだよね。よく分かんないけど」
再度、奏はため息をつく。
とはいえその表情は嬉しそうではある。仕方が無いな、と言いながら世話を焼いている、その理由。
「幼馴染になっちゃった宿命かな……無視なんか出来ないし」
「でも見た目悪く無いよね?」
「良い方だと思うけど本人にあまり自覚無い分苛つく」
「成績悪くないんじゃない?」
「成績は悪くないけど人当たりが悪い」
「……うん、何か、うん」
絶対にただでは褒めようとはしない。どうしよう、と弥生が思ったその時だった。丁度見ている歌乃の後ろの席に一人の男子が座る様子が見えた。
「あ、和人」
「和人?」
「ほら、今歌乃君と話してる男子」
「へー……格好いいね。友達?」
「彼氏」
弥生の彼氏は、和人だった。今まさに歌乃に笑顔で話しかけた和人。
隣で見ていた奏は複雑そうな表情を浮かべた。
「……何だろう、全然組み合わせに違和感感じない……」
「二人とも方向性が違うだけで顔整ってるからじゃないかな……?」
弥生の言葉に奏は納得した。
話している二人の様子から、それはよく分かる。
明るい印象の和人に対して、クールな印象の歌乃。元気に話している和人に対して、静かに話を聞き続けている歌乃。
正反対の印象の二人は、いつの間にか周囲の視線を集めている事には気付いていないようだった。
「ちょっと興味あるし、歌乃君に話しかけてみようかな。奏ちゃんもどう?和人と話してみたくない?」
「えー……彼氏なんでしょ?」
「あのねえ、良い意味であの顔と性格だよ?いちいち近づく女子に威嚇してたらキリが無い」
「それもそっか。……余計なお世話かもしれないけど、歌乃と仲良くしてほしい。アイツ友達ほぼ皆無だから」
「……本当に何で?」
しかし一方で。
奏と弥生に視線が集まっている事に本人達は気付かなかった。
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