第6話 教室で (1)
入学式が終わると共に生徒は教室へ、保護者は一度帰宅する流れになった。
早速校舎内へと足を踏み入れた歌乃と奏。廊下を見るだけでも綺麗だった。
「設備が充実している上に豪華。やっぱり中学校とは違うね。私立だから、っていうのもあるかな」
「まあそれなりに金はかかってるだろうな」
話をしながら二人は自身の教室へと向かっていた。周囲の生徒達も仲の良い相手や久しぶりに会った相手と話をしながら廊下を進み階段を登っていく。人数が多いために若干歌乃は顔を顰めながらも我慢して動きを合わせる。
その様子に奏は呆れたように言った。
「疲れたのは分かるけど、眉間解したほうがいいよ。顔怖いよ?」
「マジか……直しとく」
そんなやり取りを行った後、二人は教室に到着した。奏は教室に入るなり早速何人かの女子に声をかけに行く。
歌乃はその様子を見送り、席順を見て自分の席に座った。窓側かつ後ろの席。
そして座った歌乃はぼんやりと窓の外を眺め始めた。この行動の理由は至極単純。
他の生徒に話しかける勇気が出なかったためだ。
話しかける勇気は無く、しかし何かする事があるわけでもなく。ただ座って窓の外を眺め続けるという状態になってしまった。
(ミスった……)
入学早々ぼっちが確定した。
平気と言えば平気だが、おそらく奏は心配するだろうな、そう歌乃が考えていると一人の男子生徒が歌乃の前の席に座った。
それだけではなく、後ろを振り向き歌乃へとその男子生徒は話しかけた。
「よ。何で外眺めてんの?」
「……いや、特に理由はないけど」
「……?じゃあ何で外眺めてんの?」
「…………人見知りだからだ」
「マジ?」
驚いた表情を見せてその男子生徒は名前を名乗った。
「人って見かけによらねえもんだな。俺、
桜河和人。
黒髪を短髪に切り揃えた男子生徒。キリッとした目元、小説の生徒会に居そうな少年といった風貌。それでいて明るい雰囲気を纏っている。
落ち着いた雰囲気の歌乃とは真反対の印象の同級生だった。
「……黒瀬歌乃。よろしく」
手をヒラヒラと振って気軽に声かけてきた和人に、歌乃は距離感を掴みづらそうにしながらも何とか挨拶を返した。
「黒瀬は何となく漢字分かんだけど……かの?ってどんな漢字?」
「『歌う』の歌に……あの、刀に似た漢字の『乃』だ」
「へー……珍しい名前だな?女子でもありそう」
「よく言われる。……ところで、さっきの言葉はどういう意味だ?」
「さっきの言葉?」
「あの……見かけによらない、って言葉だよ。俺周りからどんな風に見えてんのか気になって」
歌乃の言葉に、ああ、と言うように和人は頷いた。
「あれだよ。何か一人でも平気そうな顔してたからさ。人見知りしてるって言われて意外だったんだよ」
「……まあ実際平気だけど」
「お前面白いな」
声を出して笑う和人。何が面白いのかよく分からず黙る歌乃を他所に近くにいた二人の女子生徒が和人に声をかけた。
「桜河君、今日学校終わった後、何か予定ある?良ければ一緒にカラオケ行かない?」
「あー……ごめん、彼女が怒っちゃうからやめとくね」
「えー……桜河君、彼女さんいるんだ。残念。また今度男子も混ぜて誘うね」
「おっけー。またその時に」
和人はまたね。と手を振って二人との会話を終わらせた。その間、ずっと黙っていた歌乃。その様子に和人は納得したように頷いてみせた。
「人見知りってガチなんだな」
「いや、今のは話を邪魔しないようにしてただけだ」
「話に混ざろうとしなかっただろ」
「……それは、まあ」
バツが悪そうに答えた歌乃に気にするな、と。
「別に大丈夫だ。無理に話に混ざってくれなんて言わないから」
「ていうか、俺以外にも話しにいかなくていいのか?」
「もう全員話しかけた後だ」
「……左様ですか」
少しだけ歌乃が周囲に目を配ってみるとかなり席が埋まってきている。どうやら外を眺めている間にかなり生徒が来ていたようだった。
わざわざ全員に話しかける和人の勇気に歌乃は驚く。一人も話しかけられなかった歌乃とは違い、目の前の男子生徒は全員に声をかけていたのだと。
ならば尚更何故自分と話そうとするのか、歌乃は疑問に思った。
「それなら何で俺とずっと話してるんだよ」
「うーん、なんて言うかな……話しやすいからかな」
「……?」
「自覚ないかもしれないけど、歌乃と話してると自然に話せるっていうか。結構話しやすいんだ。俺も今言われるまで気づかなかった」
うん、と頷き。和人は右手を差し出した。
「折角席が近いんだ。仲良くしよう」
「……何だ、適当に座ったわけじゃなかったんだな」
歌乃も右手を差し出し。
しっかりとお互いの手を握った。
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