第5話

「西村?」




誰。




自分の頭の中には記憶にない差出人『西村のの香』とやらの頭にはわざわざご丁寧に『総務部秘書課』と一つ疑問が解消されるキーワードが乗っかっていた。


それでもそんな奴居たっけ、と考えて。


『西村』といえば佐伯班俺らの上にいる瑞樹さんの秘書?さんが西村さんだけど。


あれは男だしどー見ても『のの香』ではねー…いや、見た目で判断も悪ぃな。


もしかしたら『のの香』かもしれないよな。


同じ苗字……奥さん?とか?


夫婦で働いてたっけ。



送信されたのは13:01。ついさっきだ。


天野に呼ばれて席を立つ五十子を横目で見送ってから、件名には依頼の件についてと記されているそれをクリックした。




依頼の件について



宇随雅宗 様


お世話になっております。

総務部秘書課 秘書補佐をしております、西村のの香と申します。


折り入って宇随様にお願いしたい件がございます。


本日、もしお時間宜しければこちらで場所を手配致しますので

ショートメールでもお電話でも、ショートメールでも

お手数ですがご連絡いただければと存じます。


お忙しいところ急なお願いで申し訳ございません。

宜しくお願い致します。



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

株式会社 U

総務部 秘書課

西村 のの香 (Nonoka Nishimura)


〒×××-×××× 東京都××区——

TEL:××-××××-×××× FAX:××-××××-××××

HP:——


Mobile:0⚫︎⚫︎-⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎-⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎

E-mail:——

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -





何つーか…。


“切羽詰まってます感”凄ぇな。社内の人間に『お世話になっております』で始めてるし。 ショートメールって二回打ってるし。


電話よりショートメール希望なんだろうな。





————宇随雅宗 様





「……ふ」




「? 宇随さんご機嫌ですね」



「まーな」



思わず笑っていたことを指摘され、隣の椅子を引いた班唯一の女・前坂に「何か良いことありましたか」と覗き込まれる。



「どうでもいいけどおまえ、顎に何か付いてる」



呆れて指摘し返すも前坂は恥ずかしがる様子もなく「うわぁほんとだ」と指先で拭ってけらけら笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る