第76話

犯、す…?


さっきから、何を言っているのだこの人は。



目の前が眩むような熱量。



本能が喰べられる、逃げろ、と叫んでいる。


叫んでいるけれど、この身体に勝てるわけも術もなくて、私は。



ただただ唇の端から「待って」と懇願するばかり。




「あ? 聞こえねーよ」



スローモーションで映る。


額と額が触れそうな距離まで迫った男は、くらくらするような香りを漂わせて低い声で囁いた。



「“浮気”したら犯すヤるっつったよな?」




え!?



「い、言ってな——ヒ、ぁっ」




言い終える前に私のベルトに片手が掛けられあっという間に外されたかと思えばその手は下着を引っ掻いた。



必死に、手首を掴んで止めようとするも身体を起こした男は私の脚を持ち上げて下着を脱がす。




「まっ、——善く——!!」




先程まで一緒にいた善くんの顔が思い浮かんで思わず名前を呼んだ。




その瞬間、ピタ、と手を止めた花山院さん。




何も、聞こえなくなって、



キツく瞑っていた目を恐る恐る開けると、暗がりの中、私を見下ろす目と逢った。





「今何った?」

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