第75話

「とでも言うかと思ったか?」



「わ…っ」



伏せていた顔を上げたと同時にベッドが軋む。身体は沈んで、影に覆われた。



覆い被さった花山院さんと間近で目が合って、心臓が痛くなる。



「何処行ってた? 何で首開いてる? 最後見た時は閉めてたよな? で、何でおまえ酔ってんの? ——つうか、」




どうしてこんな、身体全部が心臓になったみたいに重くなるのかわからない。



質問責めにされて更に混乱していく。





「…この匂い、何?」




両側につかれた腕の所為で身動きが取れない私はただただ、この世界一だと思う顔面を見上げることしかできないでいた。



そいつは言った。




「におい……?——ッ」




問い返すと同時に迫った顔は私の首筋に落ち、そのまま歯を立てられて、声にならない声を上げる。




ぢゅ…と目と歯を食い縛るような痛みに苛まれる。



「ゃ、ぁ、あ……っ」




追って今度は熱いのか冷たいのかわからない舌を這わされて声が漏れた。




「へぇ…? 寝てる時はピクリとも動かねぇくせに、声出せんじゃねぇか」





な、なに……? 何を言っ



男は紺のパーカーを着たまま、スウェットパンツの紐に手を掛けた。




「泣こうが喚こうが、無理矢理にでも犯せば良かったか?」

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