第66話

善くんは初めて会った小学生の頃から、克彦じーちゃんとふたり暮らしだった私の“近所のよく遊んでくれるお姉ちゃん”みたいな存在だった。




『キリティーの口から聞きたい』



そう言われて、思い出す。


言いたかった、聞いてほしかった、ぐっちゃぐちゃで整えたい気持ち。



待ってくれる善くんは適当に注文を済ませていた。



「私 前、どこまで話したっけ…」


「『孕め』って言われた所まで」



あっさり答えてくれる善くんに何故か照れた。



「そうでしたそのような事件もありましたね…」


「え、まさかヤッてないよね?」


「やるかァ!!……はっ」



ちょっと声大きかったかな。



「その最悪の事態を迎えない為に日々の体力をそこに全集中、費やしていることに変わりないのだけれどもね、善くん。一応…一応? 花山…あ、妖怪さんは我が課に配属される予定だった人だったみたいで、私の家に入れたのは職権乱用?していたみたいでね」



「現状、聞いただけだと容姿が良いだけのヤバイ奴に変わりないわね。キリティー完全な被害者よ。訴えたら勝てるわ」



「ただ私、ずっと気になっていることがあって」



そこで店員さんがミルクセーキとブラックコーヒーを私と善くんそれぞれの前に置いた。


善くんは店員さんに「逆なの。ごめんなさいね」と甘ーく笑んでグラスを入れ替えた。彼はそれこそ出逢った時——彼もまだ高校生だったが——いっつもコンビニの紙パックのミルクティーにストローを差して飲んでいた印象。激甘党だ。



「あ! 甘党といえば」



思い出してよかった。

私は持ってきていた紙袋を善くんに差し出す。


「忘れない内に。これ今日先輩にお裾分け頂いたものだけど、よかったら」



「あら、有名な洋菓子店のじゃない。

この前もテレビで…気が効くわね、ありがと」



意外にも笑うとふんわりな善くん。この笑顔が堪らなく可愛い。



「ってアンタ…それ」



顔色が変わった彼に「え?」と零してすぐ、

指先が首筋の髪を掬った。



「っ」



「何よこの痕…」

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