第60話
「畏まりました。こちらのものに関しましては今新しい物をお持ち致します」
「えっ!!待っ、ぐ」
当然そんなお金持ってない、幾らかも見てない、絶対高い、買わされる…!?という焦りで手を伸ばすもやっぱりよろけ、見事に花山院さんの腕に掴まった後頬を抓られた。
「い、いひゃいっなにっ」
ええ何この顔。恍惚としたような。黙ってじっと私を見つめながら頬をむにむにして遊んでいる。
「きーり」
また。
猫に赤ちゃんに話し掛けるような神出鬼没な口調が飛び出した。
「おまえは外面なんか飾らなくていい」
「——っ、」
え——…
な、なに、
急に。どうして…
「それ、は どういう…」
どく、と変なリズムで鳴った心臓。
苦しくなって、呼吸まで惑わされてしまうけれどこれは驚きでも、
恐怖でも、
なかった。
彼がその問いに口を開きかけた時、丁度店員さんがやってきたのか頬を摘んでいた指が離される。
「お待たせ致しました。お召しになっていた靴は引き取りも可能ですが、いかがされますか?」
あ……。
「持って帰ります」
ちら、と私を見遣った花山院さんはやはり心が読めるのか、履いてきたぼろぼろの汚れた靴を受け取ってくれた。
持って帰って、いいの…?
そんなの、当然捨てて行くって言うかと思った。
新しいの買えって。
言うかと思った。
私には、
その優しさが、一番、嬉しかった。
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