第58話

ははって。



「綺麗アレルギーですね」


「フーン?」



「、ちょ」


ビルに入る手前、突然腰を持ち上げられて悲鳴を上げた。


背を曲げてキラキラ光る御顔を近づけてくる妖怪に「アッ、アレルギーがっ」とブルブル震える。



「ショック療法が必要だろ」


ふと陰った表情の中微笑って、それらしいことを口にする。



腰に回した腕を解いて有名ブランドが店を構えるビルの中に入って行ってしまうのを必死に追いかけた。



如何にも喫煙室など用意ございませんって感じの煌びやかな雰囲気。


その中を長い御御足で颯爽と進んで行く男に私と同じ緊張は全く感じられない。



「っ痛」


何と読むか分からないブランド名当てクイズを始めていたら背中に横っ面をぶつけた。



すみませんと頬を押さえる私を極上の顔で振り返った花山院さん。何かを見ていたようで、



毎回・・



大きめの声。既に何度か目にしている悪戯っぽい笑み。



「首痛ぇんだよなー…」




「…?」



「脚も短くて歩くのおせーし」



そう言いながら、彼は私の腕を引いた。



そうして戸惑いの中放り込まれた先は、私でも読めるくらい知っているブランド店。



「いらっしゃいませ」


不信感を一切感じさせない上品な会釈を思わず見つめてしまった。



その背後で勝手に店内を突き進み、早速店員さんに「これとこれ」と何やら指図している声が聞こえてきて、とりあえず早、と思った。



「あ、私は違くて。すみませ——」



目が合った店員さんに汗を飛ばしながら拒否の手を振る私を、影が覆う。



肩を押し倒され、後ろにあった椅子に座らざるを得なくなった。


「わ、…!?」



喉を鳴らして驚いた。



それにはもう一つ、わけがある。



黙って座らせた花山院さんが、何の躊躇もなく私の目の前に膝をついたからだ。

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