第57話

「どこの喫煙所向かってます か…」


あらぬ方向に押し出されていて、喫煙所の場所を知っているのか不安に思い、きいてみたら。



「まー、綺麗ではねーな」


突然覗き込まれて固まる。



「は、い」


そんな、美し〜い人々にまじまじと見つめられてはっきり『綺麗じゃない』と続けざまに言われる日、あります?


私はありました。

今日です。


こうも綺麗じゃない綺麗じゃないと言われると、という事はつまり、汚いのか?と別の不安が生まれる。


汚いって…いよいよなのでは…。



「女っけもないしなぁ」



花山院さんにというより自分に確かめるように呟いた。


見下ろした爪先も、本当はスニーカーが履きやすいのをイヤイヤ“OLさん”に寄せた最大限の譲歩、最大限歩き易さを重視したペタンコ靴だ。


真っ黒な合皮、もう一年以上毎日のように履いているそれは履いたり屈んだりを幾度となく繰り返したが刻まれている。


ペタンコ靴は悪くない。

履いている主人に問題があったようだから。


「その靴200円?」


降ってきた台詞にむかっと来て顔を上げたものの、合わせた顔があまりにも真剣だったから思わず噴き出した。



「ちがいます、そんなに安くない」


「300円」


刻んでくるな。


キリがない、


「2000円です」


「安」



「……。っていい加減どこに向かってます!? もう社外ですよ!」



立ち止まろうとする度押され続けて蕩々外まで出てしまった。

いつの間にかジャケットのボタンを外した花山院さんは気怠そうにスラックスのポケットに手を突っ込んで歩みを止めない。


「うるせーな。てめぇの喫煙室が吸い辛いからそこのビルの行くんだよ」


「何でだよ!?」



あっ


思わず突っ込んでしまった。



だって非喫煙者の私でも知っている。会社の喫煙室は綺麗だも…


綺麗……


「アァ」



「おまえ今喫煙室と自分を比べた上で負けた? はは」

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