第52話

防げない。


毎回毎回、始めに遭遇した時から未知で常識を逸脱していたから、このひとを前にすると私の培ってきた常識が無と化してしまう。歯が立たない。


花山院さんは——




「“百目鬼さんの担当されている方”嫌いだろ」




思考の途中で投下された台詞に回路は停止。



「きらいというか…」



——私は、今、目の前にいるこの人の事しか知らないのに、


花山院さんは、今、目の前にいる私以外の私の事も知っているみたいで。




「…まず二課についてでしたね。

天野さんとも面識ありそうでしたし知っているかもしれませんが…二課は表立って社外に公表されてない・・・・・・・少し変わった課で…あ、表向きは庶務課に属しているので普段の業務はそういったことも行います」



「電球替えたりとか?」


「電球替えたりとか…はあまりないですが。コピー用紙を各フロアに持って行くくらいはしたりします。別件のついでもあって」


「それ、先輩・・がちんちくりんだから他の縦に長い奴らが請け負ってんじゃねーの」


「え…!?」


皆私の知らない内に電球替えてた…?



だってでけーのばっか、と、自分も十二分に長い脚で歩幅を合わせてくれているのが伝わってくる。意外だ。


スーツの裾直しとか、した事ないんだろうな。



「で、『別件』が本業務か」



その通りだ。

この反応ということは真の業務内容までは本当に知らなかったのかもしれない。あくまで、かもだけど。



「はい、私たちは普段、極端な話営業にほしいと言われたら営業に、広報の雑用をと言われたら広報の雑用をします。

ただ違うのは、私たちは社内に向けた人間で、謂わば此処で働く社員のメンタルヘルスケアが第一ということです。


公にされていないのは、単なるヘルプではなくて——例えば対象の上司からの『部下の仕事が遅い。ヘルプ』より、同期からの『最近上司にきつく当たられているのを見て〜ヘルプ』を優先するためです。基本的には相談から派生して動きます。


機械にでさえメンテナンスが必要で。だから、人が働く限りその人を救う仕事も社内に設けたいと」



課の構成としては、引き抜きと新卒採用半々くらいらしい。



「前坂先輩、この仕事好きそうだな」

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