第41話

・・・




その日の夜。



玄関から聞こえてきた鍵の開けられる音に、妖怪が初めて入って来た日の次に肩を上げた。


肩の、高さの話である。

しょうもなくない。


私は部屋着で、部屋の奥で正座をし、両手を握り合わせて祈っていた。


どうか、どうか今宵も私の身が無事でありますように。



玄関は妖怪を察知してあかりを灯す。私は意を決して明るくなった方へと足の裏を滑らせた。



花山院かさのいんさんっ」



姿を追い男が消えた部屋に入ると、暗がりの中既にスーツを淡々と仕舞う姿が在った。


我が家かょのツッコミも忘れて思わず拳を握ってしまう程の色気。



一瞬こちらに目をやったかと思うと二言、



「声がでけぇ。黙ってそこで待ってろ」


と。


着替え始めた妖怪を前に引き返そうとした私に投げかけられた言葉だった。


いつの間にか露わになった上半身は暗がりでも分かるくらい無駄のない身体で。色が白いのか綺麗なモノクロ写真のようだ。


気が付くとグレーのTシャツを着た男は私を通り過ぎようとしていて、はっとした私に振り返り「手洗う」と謎の報告をしてきた。



「ど、どうぞ…」



妖怪の着替えをまんまと見守ってしまった。


時刻は20:16。



洗面所から戻ってきた妖怪はまたしても私を通り過ぎ、

リビングの壁に凭れ掛かって座った。



「何もねーなこの部屋」



私にもありました。家具を買おうとワクワクしていた時期が。それもスーパーでの恐怖体験を経てそれどころではなくなりましたがね ええ。



「で? 聞きたいことがあるなら聞いてやる」



「あ、の花山院さん」


「聞こえねぇ」



くそー!


遠く遠く、大分離れた所に居た私は仕事で貰ったスタッフTシャツの裾を強く握りしめ、5cmの歩幅で妖怪の元へと近寄り、


「花山院さん!!」



「おまえバカか!? その選挙音量やめろっつったよな!? 土に還れ」


「えっ……」



土に還る程の罪?

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