第37話

「前坂さん…どなたですかこのイケメンさんは」


可哀想に凭れ掛かられながらそれでも果敢に疑問をぶつけてくる五十子くんだったが、頭の中は“やっぱり、名前を隠したんだ。”でいっぱいだった。



「お知り合いですか」



「どうして」



「どうして? 何で俺がオマエに俺を教えなきゃなんねーの」




名前だけじゃない。


それは、妖怪が誰かという全てのことに対しての意味。




「何で知っちゃだめなんですか」



「知るなとは言ってねぇ」



んん?



「でも名前くらい知らないと」



蕩々とうとう会社まで侵してきた。妖怪を凝視している五十子くんが手にしている紙に細工が施されていなかったのなら私だけが妖怪と呼ばなくてはならないのか。白い目で見られるぞ。



「あの、お話中すみません。美形さん。これって何て読むのでしょーか?」



妖怪を美形さんと呼んだ五十子くんは、私などお構いなしに純粋な眼差しで妖怪へと質問をぶつけた。



「あ?」


イラァッとした様子で五十子くんを見下ろした妖怪を見て、ああやっぱりと思ったが、はたと眉間の皺は緩まった。



「おまえ…“四つ”か」




四つ?



何の話?



五十子くんが眸を輝かせて頷くのは見えた。




「ま、俺には関係ねーな。ここで教えるわけにはいかな」



「あっ花山院せんせーい!」

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