第36話

「あれ、真実泣いてる?」


「え、泣いてない、けど」



覗き込む健に否定すると、彼は言う。



「真実、ほろ酔いだと泣き上戸になるから」





「たける、が、雑誌の取材で『笑ってるところが好き』って言ってたから、泣かない」





健は一瞬驚いたような顔を見せ、またふと長い睫毛を魅せる。



「ああ、あれ。読んだんだ?」


「み、ずきさんが教えてくれた」


「……へえ?」




「真実、」


「…ん」



「俺が真実の泣き顔好きなの知っててそういう顔するの?」




「え」


疑問符を浮かべるあたしの首を、健の指がなぞって背筋を震わせる。



「真実はさ、お人好しだから誰にでも簡単に笑うだろ?」




ぼんやり眸に映る健の前髪が伸びたことが、あたしの意識に留まる。


「たける、前髪伸びて…」



彼は触れようとしたあたしの手を掴んで「それはそっちの方がいじり易いからってだけ。ちょっと黙って聞いてて」



「うん…」



「だからか真実の泣き顔は誰にも見せたくないんだよね」


「とくべつだから…?」


「そ。特別だから」




今更酔いが回り始めているのかあたしは、テーブルに手を伸ばして、健の眼鏡を、健自身に掛け直した。


「何?」




「……あたしも特別だから、健が眼鏡掛けてるの、好き、なのかな」




「……。煽るね」

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