第20話

心がぎゅっとなるときがある、と。


そんな話を、嵐は真剣に、でもどこか優しい顔をして聞いてくれていた。



「で、ね。あたしにはこのモヤモヤが何なのか分からなくて。ずっと、あるのに」


「それ、ハッキリ言うけど、高橋のことが好きなんじゃない?」


「……」


「真実今、自分でそうだと思った?」



「…うん」


自分でも驚いたけど、何となくそんな気はしていたのかもしれない。ただ、初めてのことに実感がなかっただけで。


そっか。



「でもそれって、狡いと、思うんだ。高橋くんが格好良いって知った途端に好きとか…」


あたしは弱々しく微笑んで付け加えた。


嵐は「ん?」と微笑む。



「そんなことないでしょ。それが切欠になっただけで、もし素顔を見てなくても、真実は高橋のことが気になる時がきたと思う」


「?」


「だって真実の今の話。変わった後の高橋が格好良いだとかよりも、変わる前のそいつが優しかったとかの方がちゃんと多かったよ?」


「…!」


嵐は、真っ赤な顔のあたしに続ける。


「ってうかまず。好きになるのに相手のことを『格好良い』って思うのは当たり前だからね」



嵐の答えは、あたしが抱えていた悩みをなくしてくれるのには充分すぎるほどだった。



「ありがとう、嵐」


「ん」



「でも、あたし。こ、恋、初めてだから…」


そう言って頭を掻く。



「大丈夫。真実は真っ直ぐ素直なままでいたらいい」


「え、?」



自分を嵐が言ってくれるような人に思えたことはないけど、多分今のあたしにはそれしか出来ないこと。


それに、これだけは分かった。



あたしは高橋くんが“好き”なんだ。


それだけ分かったら、きっと平気。

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