第12話

「あ―…、でも」


「?」



「眼鏡割れたから、明日から――」



そう言いかけてしょうがないね、と妖しく微笑む。




「――…」



バチンッ


頬を思い切り叩いて、変な気を振り切った。



凄い、何だかこの人は凄い、けど。



きっと、こういうのを誘惑と言うんだ。


危ない、危ない。




「……」


「はい、手当てだよね」



一度前髪を上げるのをやめて、額に落ちた前髪は、サラ、と揺れた。


それをそっと上げる。




彼は、何も言わずに黙って視線を下に落とした。


上から見た伏せた瞼がとても綺麗だった。




「平気?」


痛いかなと思って消毒液を塗りながら尋ねる。



「うん、へーき…」







「はい、完了!」



ポス、と、中腰になっていた姿勢を元に戻す。




「……ありがと」



「!」

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