第8話

さっき、確かに眼鏡を拾い上げていた。

そして何か呟いていたような、気が、しないでもない。


とにかく、コーンに潰されたんだ…!




「ご、ごごごごめんなさ…!」


「いえ…僕も悪いので」



そう言いながら涙目になるあたしの手を握って立った彼は、予想よりよっぽど背が高かった。



でも、顔はよく見えない。


長めの前髪と、濃い黒縁眼鏡が邪魔をしているから。




「…ああ!」


「?」



そう言ってズイッと顔を近づけたあたしに対して、彼は反射的に顔を引く。



「こめかみが切れてる…!」


「え?」



「早く保健室行かないと…!!」


「ちょ、ちょっと待っ…」



そう言いかけている彼の声は遠く、あたしは手を引いて走り出した。




「コーンは「こっちのが大事に決まってる!」







――…その時。





彼が驚きに一瞬目を見開いたとは知らずに。




あたしは、彼の手を引いてただ走った。









「先生!」



ドアを勢いよく開けてそう叫んだ保健室には誰も居ず、代わりに机の上には【先生は職員室にいます】とハートマークまで付けられたくせ字で記された紙が置いてあった。



そっか、今は昼休み。


どうするかな…。




「――あの」

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