第9話

繋いだままの手に視線を下ろして、「手…」と呟きかけた彼をキッと睨む。


「何!?」



その荒々しい剣幕を前にして、彼は小さく黙った。




それを目にして驚かせたことを謝ろうとしたとき、やっぱりどこかで見たことがあるような気がした。



あたしは彼をよく見つめてみる。


皺のないワイシャツに、しっかり丈に合ったズボンも見本のように着こなしている。



「……」


確かにちょっと、地味かもしれないけど、何か良い人そうだなあと勝手に思った。



こうやってサバサバしてて“男みたい”だなんて言われてるあたしよりはよっぽど大人しそう。




「ごめん!座って」



考えの途中で吹っ切れたあたしは彼を丸椅子に座らせ、その向かい側の椅子に座った。



「ちょっと痛いかも」



そう言いながら横にある薬台の中から消毒液を手に取る。



「眼鏡取って」


「…」



そう言って消毒液から視線を上げて彼を見ると、まだ眼鏡を取っていない。



「どうかした?」


「や…」


「ん?」



「眼鏡取らなきゃ駄目、ですか」




「ええ?」



意味が分からない。


「取らなきゃ消毒出来ないよ?」




それでも彼は食い下がる。


「自分でやったら駄目ですか」



「だめ。これくらいやらせてください。でないとあたしの気も収まらないし…」

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