第82話
「そうか。俺は、沙織に『好き』でいてほしいのか。」
さらっと口にして、くすくすと鼻先で笑うらいおんさんを丸めた目で見つめて、生きる心臓がきゅっと締め上げられるような感覚。
それから、すん、と鼻を動かす音がする。
彼が止まったあたしを見つめ返して不思議そうな顔をしているのが分かる。
「沙織?」
呼び掛けが、呼び止めに変わる。
「さおり、俺は。」
穏やかに言葉を述べるらいおんさんは、静かに何かを受け止めている音ばかり発する。
「生き物は、好きなものをくれる、好きなことをしてくれる、そういうひとのことは好きになるだろう。俺は、沙織にそれをができない。」
すまない、と。
何故彼が『できない』なんて口にするのか。
「こうして、傷を付けることの方がずっと安易だ。」
らいおんさんは再度、あたしの唇を自分のそれでなぞった。
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