第77話

「沙織。」




名を、呼ばれる。



それだけで、泣きたくなるような気持ちって、本当に実在していた。





「…はい。」




「こういう時は、礼を言った方がいいのか、謝罪した方がいいのか、どちらの気持ちもあるから判らないな。」




彼が困ったように笑うから、つられて笑う。





するとらいおんさんは触れていたあたしの指に、自分のそれをするりと絡ませた。



びく、と肩が揺れる。




らいおんさんは、繋がれた手を見つめたままだ。






「いや、どちらでもない。…………好き、だ。」






え、と空の言葉が外の世界に零れる。




彼は呟くように、


囁くように、


語るように、




教える、ように。「さおり、すきだ」と零した。

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