第75話
「…右手、汚れてしまったな。」
らいおんさんが呟いて次に触れたのはあたしの右手で、それは先刻、拭ったらいおんさんの血が薄くなって痕を遺している手だった。
彼のヒトの手は、それを掬う。
あたしはいいえと、涙の道を拭わず首を横に振った。
彼はあたしの顔を見て口を開く。
それだけで、やさしいと名前をつけるのが正しい想いが、心の中に残る恐いという感情を包み込んでしまうから不思議だった。
「あの姿が沙織を泣かせるものなら、もうあれを見せるのは辞めようか。」
そう口にする金色は、いつの間にか綺麗な睛を濡らしている。
「…ううん。泣き始めたのはあたしで、泣き止ませてくれたのはらいおんさんだから…ごめんなさい、泣いたりして。」
まだ、声の終わりは震えを残すけれど。
それは余韻だから、信じて欲しい。
なのに彼は、あたしを哀しいままの睛で見つめている。
言葉を、続けた。
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