第70話

太陽が真上に昇って、遠く、広く辺りを照らす頃。




目覚めた後、やはり隣に居てくれたらいおんさんと朝の支度を済ませ、仕事を探す。



彼に問うたところで「何もしないでいい。」と返されてしまうだけだから。




そして見遣った庭先の木に、一本だけ飛び出ている枝を見付けて伐採することにした。らいおんさんが縁側まで運んで来てくれた脚立と長鋏を持って行く。





「らいおんさん。」




脚立の最上に上って振り返ると、初めて会った時とはまた違う、藍染めの浴衣を着たらいおんさんが腕組みをしてこっちを見ていた。



日の当たらない縁側から。




「其処にある短い方の鋏を取ってもらえますか。」





離れたところにいる彼へ少し声を張り上げて言うと、らいおんさんは縁側の縁に置いてある鋏を見て、表情を止めた。



「?」



不思議に思うと、らいおんさんは歪んだ表情を見せ、「いや、俺は…。」と小さな声で何かを言い掛ける。





その時の彼はまるで“日から逃げて”縁側に姿を置いているようだった。


だからあたしは、不思議で。

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