第68話

らいおんさんは静かに光るような睛のまま、あたしの髪を梳いた。



触れる指先には、意識が向かない。





「『寿命』の話の続き、聞くか?」





目の覚めてしまったあたしに気付いてか、らいおんさんは優しく目を細めた。心臓が締まって、首を縦に振る。




「昔一度、家にいることが嫌になってな。日が沈んだ後、逃げ出したことがあった。」





『家にいることが嫌になって』。




あたしは彼が、このお家で普段どう暮らしているのかを知らない。






「色々あったんだが、腰を曲げた人間を見たんだ。」




「おじいさんとか、そういうこと?」



問うとらいおんさんは、そうだと頷く。




「その時、俺はそれが自分には“ない”ことだと気が付いた。」





「――…?」

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