第66話

「貴方が、姿だけでも人間でなかったら。あたしは貴方にこんな感情を抱かなかった。」





急に、お腹が痛くなる。




らいおんさんの表情は変わらない。



いつもそうだ。




大事なとき、大好きなひとといるとき、いつも、大嫌いな自分。






「沙織。」






嫌な汗の滲む額。


ぐ、と腕に込められる力。




らいおんさんはあたしの名前を真っ直ぐ呼び、再びあたしを引っ張って自分の目の前に来させた。



彼の胡坐に収まるあたしは、酷く美しいこの睛に吸い込まれそうになる。






意識が、遠のきそう、だ。







――――……鈍痛と誰かが傍にいる安堵に遠のく意識の中、耳に届いた彼の言葉はふたつ。





(人間はきらい)




(好きにならなくていい、)







それだけだった。

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