第64話

「ジュウケツ、シュ?」




らいおんさんは、それに静かに頷いた。


すると柔らかく冷たい夜風が彼の浴衣の袖を揺らして、その髪に触れていった。



らいおんさん。遠くに行ってしまう気がして怖かった。






「或る年に、風の吹かなかった季節があったんだ。その年その季節、この世に沢山の獣血種が生まれた。」






夢のような話。



けれど話しているのは、紛れもない、目の前でこの手に触れさせることのできる現実世界の貴方。





それだけが、この話が嘘でないことの証明になれた。






「獣血種は、完全な人間じゃない。原因は今も解っていないが、別に父親か母親が動物とかそういうことではなく、子どもが“こうなる”。」





「完全な、…人間じゃないの?」



「うん。」




彼は笑みをつくって浮かべた。

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