第63話

「沙織の“鼓動”は、よく聞こえる。」





心臓の音なんて聞かれて、どう応えたら正解だという。


しかもこのタイミングで。



「そ、それはどうも……?」




自分でも笑ってしまいそうなしどろもどろさを持って、対応する。らいおんさんはあたしの首元に頬を摺り寄せたまま、美しい睛だけであたしをドキリとさせる。



あたしがどきどきしているのは、貴方が理由なのに。





「沙織はきっと、長生きするだろうな。」






「、え。」


今の言葉は、身体にしっくり来なかった。





『沙織は』って。






「ど、どういう意味なの……?」





考えが追い付かないまま話を続けられてしまうのは、いつも、酷く淋しい感じがする。






彼は頬を離して、あたしを真正面から見つめた。









――――あたしが、さっき。





どうにかして息継ぎをしようと出て行ってしまった、深い深い水底。






らいおんさんは、そこに取り残されたような目をしている。









蒼の水面に映る月だけを泳がせて、“ああ、また行ってしまった”と。

















「――――――……沙織は、“獣血種”を聞いたことがあるか。」

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