第60話

それを耳にした彼が睛を見開いたとき、今まで朱でも碧でも、緑でも黄でもなかったそれが、一瞬。


僅か一瞬だけ。



獣のそれに、輝いたのだ。





「貴方は、言葉にすると見えなくなるような何かを怖がっているから。言えないのではなくて、言わないのね。」





ゆっくり、ゆっくり言葉を紡ぐ。




傷付けないように。




他の誰でもない、貴方を傷付けませんように。





「沙織……。」




「はい。」






らいおんさんはそうやって悲しい睛のままで、あたしの髪を抄き、首に指先を触れさせる。



くすぐったくて肩を竦めれば、らいおんさんは甘い顔をした。






「寿命が、」






寿命?






瞼を魅せる彼の、甘い表情が、あたしの思考を停止させようとしているのがわかる。

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