第58話

「わかる、の。」




返事をする代わり、可笑しそうに覗き込む美しさに込み上げる羞恥。


あんまり恥ずかしくて顔どころか首辺りまで紅さが拡がるのが判るので、できたら顔を背けたいほどだった。




そうしたら、瞼をゆっくり閉じるらいおんさん。



だから、気遣ってくれたのかと思った。





それからそっと、夜空にやさしく低い声を溶かす。





「ああ、わかる。」





彼はどうしてかあまい表情を浮かべた。





「でも、さおりみたいに綺麗なものばかりじゃない。俺を、恨む者。憎む者。いつも取り巻くのは、そういう気持ちばかりだ。」






「…………え、?」





睛を閉じていてもあたしがどういう顔をしているか判っていたかのように、らいおんさんは穏やかなままで、ふたたびあたしを覗き込む。




「だから、綺麗だと思った。」





「じゃ、じゃあ、どうしてそんな顔するの?」




そんな、泣きそうに微笑むの?






「さっき、此処の家のことを言っていただろう。沙織は、見て解るのかと思った。――――…ここは、俺が生きてきたこの世界は、俺が、生きていくこの世界は。きっと沙織が死ぬまでに見ることさえない世界。」

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