第54話

え、と短く声にする。



そしてううん、と首を横に振る。




――らいおんさんは。





一瞬何かを考え込むような表情を魅せ、それに釘づけになっているあたしを逸らすように立ち上がった。




「っ」



同時に、ビク、と肩を揺らしたあたしを見下ろして、呼吸を止めたような顔をする。




何か、されるのかと思った。






「何もしないから。」






ふと表情を寂しそうに緩ませて、らいおんさんは口元だけで微笑む。




「風呂。俺はここにいたらいけないのだろう。さおりが上がったら呼べ。外にいるから。」






あたしはそれに、ただ頷き返すことしかできなかった。





踵を返したらいおんさんの寂しそうな背中を追うことができなかったこと、あたしはずっと、後悔するのでしょう。

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