第53話

鳩尾の下で伏せった顔。


彼の額がそこに当たって、少しだけ体温を感じる。



風のないところで。



ふわふわと揺れる金色に視線を奪われてから少し経って、あたしはそれに触れようと指先を伸ばしかけた。




だが、らいおんさんが浮かばせた頭で、心配そうに揺らした睛で見つめたのがあたしの腕だったから。



『ご免なさい』の理由をもう少しだけ、追求することになった。




上から見ると、彼の多くの睫毛が一斉にあたしの左腕に向けられている。



何かあったっけ、と考えてみて、そっかと。




思った。





「さおりを、傷付けた。」





「……あ、あの。全然大丈夫だけどね、らいおんさんって、その。こういうお家のお偉い方なんじゃないんですか?」




何となくオブラートに包んで置いていた話題を初めて口にしてみた。


らいおんさんは、あたしを見上げた。




彼があたしを見上げるというのは、何だか違和感だ。それからどういうわけか背筋が凍りそうな気がする。






「ああ。俺、お前にそれを言ったか?」

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