第48話

あたしはそのとき、確かに思った。



ああ、


このひととあたしは、全く別の世界で生きてきたんだろうなって。



それなのに今、同じ空間で同じものを共有していて。



同じ『美味しい』を。



らいおんさんは、あたしの何十倍も、何百倍も、ずっと、待っていたんだろうなって。




あたしが今まで、何の躊躇いもなく足を踏み入れてきた場所に立ち入ることを禁止されて。


何の躊躇いもなくやってきたことを、初めて目にするような睛で見つめて。


怖がるように触れた。




『美味しい』



そう言ってくれた。







『よかった、』





だめだ、こんな気持ちになったら。





『らいおんさん、あたしの分もどうぞ食べてください。』





箸を進めた彼は顔を上げて、あたしの顔を真っ直ぐ見た。



そうして何も言わず首を横に振った。






『いや、だ。ひとりで食べたら、美味しくなくなる……。』

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