第45話

らいおんさんは、それには何も応えなかった。



ただ、揺らぐやさしい睛を向けてくれた。



それなのにあたしは、どうしてなのか、胸が締めつけられて苦しくなった。





『らいおんさん。』





そっと、声に出す。


それから、両手を前に差し出して、彼の大きな手をとった。



警戒を解かないらいおんさんは、反射的にその両手を引っ込めようとしたけど、踏みとどまった。




その、踏みとどまったことに驚いたのはあたしの方で、彼を見上げると、彼もまた、恐る恐るあたしを見下ろす目をしていた。




――もしかして。



さっき、一度だけ。



彼があたしを拒絶したときのことを、思ってくれていたのだろうか。





『らいおんさん、あのね。大丈夫です。あたしは此処の家の人じゃないから、何にも知りません。あたしは、さっき出会ってから、今までの貴方しか、知らない。』





そう言うと、彼は一度、酷く怖い目であたしを睨み付けた。





それから。




それから、眉を、小さく顰めて、こくんと頷いた。

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