第42話

驚いてどきどきして、そうして目の前のらいおんさんが不思議そうに――それから少し心配そうに――首を傾げてこちらに首を垂れていることに気が付いた時。




もう、今見えていたはずのものは姿を消していた。





え、と、薄く開いた口を閉じずに見上げるあたしを見下ろしたままの彼は、『な、生肉じゃないぞ?』と慌てた様子でつけくわえた。




まだ声を出せないあたしに、『にくといっただけでそんなに驚かれるとは、思わなかった。』と続けた。






『……、ら、いおんさんは、普段どういったものを食べているの?』




一瞬、きょとん、とした彼は顎に手をやって天井を見上げてから『仰々しいものばかり、たべているな。』と小さく呟いた。




『仰々しい?』



そう問うと、また見下ろす。





『……ここの者で、俺の“すきなもの”を知っている奴はいないかもしれない。海鮮料理とか、そういうものが多いからな。』





その言葉に眉を顰めたくなったのを堪えて『海鮮料理って、旅館とかで出てくるみたいな?』と、問うたら、『旅館?』と聞き返されてしまった。




らいおんさんは、旅館を知らないのだろうか。

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