第37話

「あはは……ごめんなさい、らいおんさんって……あ、でもお名前には鹿さんがいるんですよね。」



目尻に涙を滲ませれば、らいおんさんはそこに映る何かをじっと興味深げに覗いて、あたしは「ふしぎ。」と笑って続けた。





鹿妻。




か、づま。






憶えておきたくなるような、大事な名前だと思います。





滲んだ涙を拭って瞬きひとつすると、らいおんさんはこちらをじっと見つめたままでいて。



それにドキリとしたのは、彼の考えていることが、あたしには読めないことだったからかも、しれない。




「何を、考えているんですか?」





どうしてか、正座から崩した脚は、全然痺れていない。




彼は、沢山の睫毛を魅せるように瞼を伏せて、それからもう一度上げて、ふと。



微笑んだ。




口を開いた。






「ひとが、自分の歳を他人に説明するとき、『今年で』と言うのは、未来があるからだと思って。」

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